第六部 第九章
無言で大悟が塔の隠し部屋に入る。
異様な事に壁は大悟達がいた部屋側を厚く作ってあり、外側は薄かった。
まるで音や匂いが外に漏れるように作ってあったとしか思えなかった。
「ど、どういう事っ! 」
茜が叫ぶ。
それを大悟と慎也が無言で見ていた。
もはや、オークの子供は助かりそうになかった。
「慎也」
「無理だ」
大悟の治せるかの言葉に慎也が否定した。
これほど酷い怪我はまだ<始まりの賢者>である慎也には無理な事だった。
「グランベルっ! 」
突然、アルヴィン騎士団長が叫んだ。
部下のラティエル騎士団の騎士らしい。
服装がやや簡素で、慎也は即座に平民出身の成り上がりした騎士だというのを悟った。
彼は挨拶の時に聞きこみで、騎士団の騎士の中に、まれに装備がやや装飾性が欠ける者を見て、何故かを聞き出していて、それは平民の中から抜粋されて騎士になったものだと聞いていた。
最前線で消耗の多い三大騎士団の中では、人手不足と貴族の騎士を死なさない為に、慣習で平民から騎士階級に挙げたものがいるのだそうだ。
「はっ! 」
「これはどういうことだ? 」
アルヴィン騎士団長が塔の隠し部屋のオーガの死にかけの子供を指差して叫ぶ。
「そ、それは……」
グランベルと呼ばれた騎士はそう言い淀む。
「貴様っ! 拷問して取り調べでもしていたのかっ! 許せぬっ! 」
アルヴィン騎士団長が叫ぶと一刀両断にしてグランベルを斬り殺した。
「えええっ! 」
茜が叫ぶ。
「なんてことをっ! <ヒーリング(回復)>! 」
慎也が叫ぶと<ヒーリング(回復)>をグランベルにかけるが、上半身を両断にされたグランベルは治る事は無かった。
「これは軍規です」
そうアルヴィン騎士団長が冷静に答えた。
「いや、貴方の部下じゃ無いんですかっ! 」
茜が絶叫した。
「そうです。申し訳ない事になった。それゆえ、部下を斬ってお詫びしました」
アルヴィン騎士団長が動じずに冷静な顔のままだ。
「貴方の責任はどうなるのですか? 」
「私も陛下から罰されるでしょう。それは受け入れますよ。異界から来られたので我々の世界とは常識が違うのでお怒りになされているようですが、それだけはご理解いただきたい」
そう吐き捨てるようにアルヴィン騎士団長が言うと踵を返した。
それを見た後、ちらと大悟と慎也がハロルド騎士団長を見た。
俯いて、拳を握り締めていた。
なので、アルヴィン騎士団長が隠ぺいの為に斬ったのがバレバレだった。
「嘘でしょ? 」
茜の顔が真っ青になった。




