第五部 第六章
窓の向こうを眺めながら茜がため息をついた。
その向こうには豪奢なソファに転がって、この世界の本を読む慎也と大悟がいた。
読んでいる本は慎也がキャサリン姫に頼んだものだ。
この国の歴史と、戦うであろう魔獣の事を知らねばならないからだ。
茜は攫われた4人を心配していて、それには大悟達はあまり付き合っていなかった。
陸が予想した通り、その四人が魔獣側の生贄の様に大陸ドラゴンの背中で寄生させられた為に、彼らは城から逃げれなくなった。
陸達の存在が魔獣と戦うための理由としても、逃げられなくするための人質としても最高の効果をもたらしていた。
彼らは陸が予想した通り、ジェイド王国の為に勇者である大悟が戦わざるを得ないようにするために攫われたようなものになっていた。
「まーだ、陸の事を心配してんのか」
大悟が不貞腐れた様に茜に聞いた。
「は? いやいや、皆の事を心配していただけだから……」
「え? そういう話なの? 」
本に集中していたはずの慎也が楽しそうに顔をあげて大悟に聞いた。
「そうだよ。あいつさ。性格は糞なくせに、結構、困ってる奴は自然に助けるだろ。多分、あいつの叔父の影響なんだろうけどさ。それにしれっと引っかかってやんの。チョロインだよ」
大悟が呆れたように話す。
「いやいやいやいやいや! 」
茜が真っ赤になって顔を左右に振る。
「まあ、そう言われれば、そんな節もあったなぁ」
慎也がそう呟くと、さらに茜が赤くなった。
「ちょっと! やめてよ! 」
茜が必死になって手を振った。
「それにしても、やっぱり良く色々と見てるよね」
そう慎也が大悟に苦笑した。
「いやいや、そのくらい普通だろ」
そう言いながら、結構、いろいろと良く見ているのが大悟と言う男だった。
このジェイド王国に対しても良い感情を持ってないのも、いきなり勇者だのこちらの都合を無視して召喚された事もあるが、その態度が気に食わないのだなと慎也は理解していた。
自分の事は自分で決めて自分でしろよって言う考え方なのだ。
そういう意味では大悟は意外と陸に似ていた。
まあ、言うと怒るので慎也は黙っていたが。
「気が付いてるか? 」
大悟がしれっと囁くように聞いた。
「ああ、何か起こってるね」
慎也もさすがに気が付いていた。
「騎士団がバラバラに出兵って何かあるって言ってるようなもんだよな」
大悟が苦笑した。
兵とは逐次投下しないことが重要なのだ。
慎也もこの国の歴史を読んだが、そんな馬鹿な事をするような戦慣れしてない国であるのは分かったので訝し気に思っていた。
大悟もまた陸と同じく、勇者に選ばれただけあって傑物だった。




