第五部 第三章
深刻な顔でエゼルレッド王と女神エルティーナが話し合っている。
グレバリー公爵は深く考え込んでいた。
「例の獣魔神ライが異界から呼び寄せた何かが関係しているのでは? 」
「分からん。あれは偶発的な出来事だったはず。我らも勇者を召喚したが、それとは違うはず。そもそも、人族には手を出せないはずだが……」
「しかし、それ以降に向こうの魔獣達が小癪にも人族のような武器を使うようになりだしました。何かが起こったのは間違いないです」
エゼルレッド王が女神エルティーナに必死に訴えた。
「ひょっとすると、勇者召喚の時から、勇者の仲間に獣魔神ライの手の者が入っていたのではないでしょうか? 」
グレバリー公爵の一言が場の空気を変えた。
「人族に手を加えられるとは思えんのだが……」
「しかし、たかが人族に厚遇を与え過ぎなのでは……」
「うううむ。となると、ややこちらの話に不信感を抱いているような勇者殿はともかく、神官と賢者のスキルを与えた二人のどちらかか若しくは二人が怪しいという事になるが……」
「神官の方の小娘がやや怪しいのではと思っております」
国王の不安気な言葉にグレバリー公爵が忌々し気に呟いた。
「ふうむ。我の神の目では、そもそも勇者を受ける素養のある大悟殿とあの二人と、邪魔者として飛ばした四人は獣魔神ライとの関係がどう見ても無かった。それなのに、獣魔神ライは何故かあの陸と言うか男には好意を持っているように感じる。ひょっとすると、大陸ドラゴンの背中にいたカルナード騎士団の二人の生き残りのヘンリー騎士団長を、我の与えたコミニュケーションスキルを使って暴れない様に封じたので興味を持ったのかもしれん」
「え? あの筋肉団子をですか? 」
「どうやって、あの脳筋を……」
グレバリー公爵とエゼルレッド王のヘンリー騎士団長の評価が最悪だった。
「うむ。信じられんことだがな」
「まさか、あの筋肉団子をあのひょろりとした男が倒したと言うのですかっ! 」
エゼルレッド王が本当に衝撃を受けていた。
「いや、動きを止めただけだ。その後イーグルベアが来て後ろから大陸ドラゴンの背中から放り落とされてたがな」
「え? 悪魔の使者と言われる眷属のイーグルベアをわざわざ護衛に回していると言うのですか? 」
「だからこそ、特別な好意を持っていると言っている」
グレバリー公爵も衝撃を受けていた。
イーグルベアが守るとなれば獣魔神ライの寵愛を受けていると見てもおかしくないほどだからだった。
そして、誰も大陸ドラゴンから落とされたヘンリー騎士団長を心配してなかった。
筋肉団子は死なないと言うのが皆の共通認識になっていたのだ。
「これは、容易ならない事ですな。あのひょろりとした男を甘く見てましたな。なるほど、流石勇者と仲違いしているとはいえ、幼馴染だけはあるという事ですが」
エゼルレッド王が暗い顔になった。
獣魔神ライが加護を与えるのも初めての事ながら、それを人族が受けているのだ。
それは非常に懸念すべき事だった。




