第五部 第二章
「信じがたい事が起こった」
女神エルティーナが呻く。
エゼルレッド王が書斎にいる時に突然に現れたのだ。
エゼルレッド王は宰相のグレバリー公爵と政治の問題で話し合っている最中であった。
裕福な国ではあるが、魔獣達と本格的な戦争をするなら戦費が必要で、それについての話を詰めていた。
魔獣達には人族との戦争は何のメリットもない話であるが、人族にとっては彼らの住処が鉱山などにある事や、魔獣の革や魔石は大切な資源である。
動物と魔獣の決定的な違いは会話が出来るかと身体に内蔵された魔石にあると言える。
心臓の近くにある魔石は精製すれば、色々な用途に使えた。
「こ、これは女神エルティーナ様。一体いかがなされた? 」
エゼルレッド王が慌てて立ち上がって跪いた。
グレバリー公爵も続いて跪いた。
「挨拶は良い。信じられないことが起こった」
女神エルティーナは即座に返答した。
「信じられない事? 」
「うむ、獣魔神ライがあの番外組にいたとか言う勇者につきまとっていたゴミを交渉相手と認めた。嫌がらせで魔獣の中に転移させたのは失敗だったかもしれぬ」
「何ですと? 」
「そんな馬鹿な! 」
「交渉など人族と魔獣が出来て一度も双方で起こったことは無い。そもそも、魔獣にも人族と交渉などと言う考え方があろうはずもなく。それなのにだ」
女神エルティーナの動揺が激しい。
「確かに、馬鹿な事を抜かす奴と思っておりましたが……」
エゼルレッド王が呻く。
「その通りだ。私も馬鹿な事を抜かす奴。勇者として召喚した大悟殿に軽蔑されているだけはあると思っていたのだが……まさか、向こう側のしかも獣魔神ライが自ら認めるとは……」
「それは間違いないのですか? 」
「うむ。私の与えたスキルを上書きしよった。これで奴のスキルは取り上げれないし、まさかと思うが何か別のスキルを獣魔神ライが与えている可能性もある」
「そ、そんな馬鹿な。人族の者ですよ? 」
「あの者を苦しめようと魔獣の中に無理矢理転生させて亜人にしたのがまずかったのかもしれない。それだと真なる偉大な大神が人族と魔獣の区分を与え、それぞれに領分を与えて分けたのに、人族と魔獣の双方の区分を持つものを作ってしまったのかもしれぬ」
女神エルティーナが震えた。
「信じられませんな……」
エゼルレッド王が思い悩んだ。
「何かおかしい。八大魔獣を相手にする計画であったが、まさか、その上の獣魔神ライが出て来るは思わなかった。たしかに、ずっと地上に不干渉であったのに」
女神エルティーナが途方に暮れた。




