第五部 第一章
いきなり陸達に対する寄生魔獣の猫達の態度が変わった。
交渉と言うのはよく分からないが、偉大なる獣魔神ライ様のお認めになられた御方と言う事で恐れ多い御方と言う事になった。
そして、陸は陸達で交渉とは何かを彼らに説明出来なくなった。
魔獣達の神である獣魔神ライと交渉すると言う事は裏を返せば女神エルティーナの方側だとバレてしまうのだ。
チヤホヤされるのが非常に後ろ暗い陸達であった。
まるで人族で言う貴族様に対する扱いである。
皆が気を遣って色々としてくれる。
親分に至っては左右の前足の肉球をすりすりとすり合わせて近くに控えている。
「揉み手」
「猫も揉み手をするんだ」
智子と天音が衝撃を受けていた。
それは恭しく親分の微笑んだ顔と共に行われた。
「いやいや、別に気を遣わなくも良いですから……」
陸がたまらず頼む。
ミャアミャアミャアと親分はそれに対して必死に答えた。
「何て? 」
「いや、獣魔神ライ様に認められた方には我々魔獣は最大限にお仕えしないといけませんだって」
「何、それ? 」
天音が首を傾げた。
ミャアミャアミャアと親分がそれに答えた。
首を傾げたので天音が不思議そうに思ってると思ったのかもしれない。
「全ての魔獣が存在するのは獣魔神ライ様のおかげなのですって」
「でも、ちやほやされる事なんて無かったので居心地悪いですね」
「いや、俺もそうだよ」
健の突っ込みに陸が同意した。
何と言っても、番外組として皆から後ろ指差されるような高校生活をしていたのだ。
それは余計にそう思う。
そもそも、交渉役と認められたとしても、交渉と言う言葉すら無い魔獣の世界でどうしたら良いのかと途方に暮れる展開である。
だからこそ、親分達には助言とか得たいのにちやほやされて一歩置かれたら助言も聞けない。
獣魔神ライ様に目をかけられている方に助言などとマジで言われて困っていた。
それだけ獣魔神ライが遥かに遥かに上の存在なのだ。
「しかし、いつから獣魔神ライ様とやらは我々を監視していたんでしょうね」
「分からない」
健の疑問に陸が答える。
だが、悪魔の使者と呼ばれるイーグルベアが現れて、あのヘンリー騎士団長を跳ね飛ばしたのも、恐らくは獣魔神ライがした事なのだろう。
となると監視しているだけでなく、庇護下にもあるという事だ。
その理由が陸には全く分からなかった。
と言う訳で情報が欲しいのに、親分達が話をしてくれなくなって本当に困っていたのだ。




