第三部 第三章
陸が走ったのは天音を止める為だった。
いきなり飛び出したら刺されてもおかしくない。
だが、天音はよく考えたら陸上部で、しかも猫の寄生魔獣の力が倍加されていた。
なので陸には全く追い付けなかった。
猫の力なのか、髭は生えて無いから分かるはずが無いのに、木の枝とか信じがたい様子で避けていく。
「駄目だ、追い付けない……」
陸が舌打ちした。
天音が陸上部だったのを完全に失念していたのだ。
陸が息をせききってついた時には天音が何かを二人に飲ませていた。
「ミャウミャウ? 」
親分が陸と一緒に追い付いて騒いでいた。
安易に人族に触るなと言っているようだ。
残念だが、一人の方は脱水症状で飲む力も無かった。
そして、もう一人も辛うじて飲める感じだった。
天音はゲンノショウコの干したものをバナナのような水を含む部分を持つ植物に突っ込んで寝かせて薬の成分を水出しすると言う思い切った力技に出ていた。
ゲンノショウコは分量的に大丈夫なのかと思う位だ。
それを強引に相手の口のあたりにすこしずつ注いでいた。
動かなかった方が苦味からかほんの少し反応した。
「エイブラムっ……」
もう一人の方あから弱弱しい声だが、動かなかった仲間が生きていた事を喜ぶような声だ。
そして、天音はさらに勝手に脱水で動けなくなった騎士の身体をまさぐっていた。
「おいおい」
「あった! 」
慌てて、陸が声をかけると、天音が叫んだ。
騎士の腰にある袋から岩塩を見つけていた。
「塩かっ! 」
陸が驚いた。
だが、冷静に考えれば、昔の日本の兵士の兵糧は米と塩だ。
特にどこの兵士でも塩は必須だ。
「ほら、多分、塩をうまい事取らないと駄目なのに、脱水症状で塩を取らずに残しているのだろうと思ったの」
そう天音が笑う。
そして、背中のバナナの枝を束ねたものを降ろした。
そして、それの木のスポンジのような中身を絞って、勝手に騎士から奪った水筒に水を絞り始めた。
水筒は革で出来ていて、中身は動物の胃を使っている、自分のいた世界でも使われていたヨーロッパや中東で使われた水筒に似ていた。
そこに水を注いだ後に岩塩を爪で削って良い塩梅になるように舌で確かめながら作っていた。
「良しっ! 」
天音が深く頷くと、ポケットから持って来た木になってた実を絞った。
それは昼にいた場所で、皆で試しみに食べてみた甘い木の実だった。
それは陸からしたら力技だが、確かに塩と水と砂糖と果汁の絞り水で手作りイオン水は出来る。
問題はそれにドラゴンのエキスが混ざっているかどうか分からなかっただけだが、天音に余計な事を考えたりさせたくないので、黙っていた。
どの道手段はそれしか無いのだ。
それを無理にでは無いように二人に少しずつ飲ませていった。
さらに、陸からしたら、正直、最初のゲンノショウコよりも手作りイオン水の方が先ではと思ったが、これも黙っていた。
その天音の迫力で向こうが抵抗しなかったみたいだし。




