第二十部 第十二章
凜に対して鉄球の投石機で戦っていたキングオーガはそれを止めた。
凜は神のフォローもあり予知されているのか発射前に着弾点を避ける。
そして、信じがたいスピードで木々を移動した。
キングオーガがこのままではらちが明かないと見たのか、直接的な攻撃に移行した。
巨大な鉄の剣を抜いた。
それは武器としても持ち込めないかわりに、鉄の棒として持ち込んだものを獣魔の手の器用なものに刃物としてなるように砥石でずっと刃物のようになるように研がれたものだ。
そんな作りでも十二分には脅威となる破壊力を秘めていた。
それを信じがたいスピードで振り回して凜に斬りつけてくる。
それをまるで猿のように凜が避け続ける。
凜も肉体のギリギリまで能力を引き出されているようだ。
すでに全身のあちらこちらから筋肉が軋み毛細血管が爆ぜて出血していた。
キングオーガが鉄の棒から削りだした剣を思いっきり凜に向けて振りぬいた。
四メートル近い、その大剣をするりと凜が避けた。
だが、それはキングオーガの罠であった。
それを振りぬいた後の反動を利用して身体を反転させた蹴りを凜に与える。
そのキングオーガの渾身の身体を捻った回し蹴りを凜が両手を交差させて受け止めた。
「シンジラレヌ。ホントウニニンゲンカ? 」
キングオーガがため息をついた。
凜が笑う。
心は全く負けていないようだ。
だが、肉体はすでにボロが出ていた。
いくら強化しても筋肉の量は厳然として違い過ぎる。
筋肉にどれだけの強化をしていたとしても限界がある。
『おのれ。もう少しで私の身体が来るのに』
凜の洗脳を完全にしているのか、もはや神は本音を隠さなくなった。
こちらに四季を迎えに向かわせている。
それの身体を乗っ取れば、獣魔は全て傘下になる。
そもそも、獣魔族を共有と言う洗脳の力で傘下にして父親と戦うのは最初から計画通りなのだ。
実はこの世界に戻る事が神の目的ではない。
父親と禍津族を滅ぼしたいのだ。
神は人族と禍津族の和平の為に結婚した神代の祖と禍津族の神とのハーフであった。
子供に対して愛情を注ぐ人族に対して禍津族はドライであった。
精神感応で話ができるせいで、出来なかった人族から来た母親は阻害された。
禍津族の中で浮いてしまったのだ。
そして、神たる父親は和平の為の婚姻としてしか見ていなかった。
そんな事は無かったのかもしれないが、母親が病気になり亡くなる時のドライな対応から神はそう思った。
それは憎悪になり、人族の麒麟児たる血と禍津族の神の血を持つ怪物は憎悪をたぎらせた。
その報復の戦いがかっての<滅び>としての戦いであった。
彼は何としても禍津族を滅ぼそうしていた。
まさか、父がまだ生きているとは思わなかったが……。
しかし、その為の策がその戦いで禍津族とともに人族と神と戦い、神が敗退するきっかけになった獣魔族を共有で傘下にする事だった。
そして、その希望は近くの丘の上に現れた。
『おおおぉぉぉぉ! 四季よ! 』
神が歓喜の声を上げた。




