第十九部 第二章
「……それは……噂の那智家の伝承……」
「ああ、知ってたのか。あまり教えないように神代家ではしているからな。実は神は悪神であちらの世界を無茶苦茶にして、神代と那智とかがこちらの世界に逃げてきたのは神の暴走に巻き込まれた事によるものだと……」
暁が縁側から庭の大きな木を見ながら笑う。
歴史が古いし、なかなか木を切るのが出来なくて、一部300年くらいの樹齢がある木があったりする。
特に古い杉は500年とか信じられない歴史がある。
元は関係が深かった修験道系の人からの贈り物だが、神の樹だと触れ込みのせいで余計に切れなかったようだ。
屋敷は大きく古く、一見神社のような作りであるので、余計にご神木のような扱いになってしまった。
「神は我らにとって、あんな感じだと言いたいのですか? 」
「分かるか? 立派で神々しい杉だけどさ。花粉症になるんだよね。あれ……」
そう暁が苦笑した。
「神が我らに害を成すと? 」
「いや、ぶっちゃけ、下々の者の事なんか気にしないってのが本当だろ。実際にそんな古くから魂を保っているのなら、俺達なんて良くて道具だろうし」
「そんな事を考えていたんですか? 」
「神代家にしたらこんな話は禁忌だからな。そう、怒るな。だけど、感覚も考えも違うだろ。常識だって数千年前の常識のままだろうし。あの時代に人権とかあると思えないしな。修験道だって、昔は山に凍える時期に昇って、凍った川の水を割って水垢離をしていたらしい。そして、それによって背中がパックリと割れるんだと。ひび割れのでかい奴だな。それは背中全部をひび割れさせて血が止まらない。それでも水垢離を真摯に続けるんだ。痛みで全く寝れないらしい。そんな人達が今の人を見てどう思うかなって疑問をその話を聞いた時に思ってな」
「……意識も常識も根性も違うって事ですか……」
「だから、勝手に神代家を救い導くと我々は思っているが、違うかもしれんぞってのはある」
「……でも、あまり、それは公言しない方がいいですよ」
「分かってる分かってる。禁忌だからな」
暁が手をひらひらさせた。
「で、陸君を候補から落としたくない理由は? 」
「簡単だ。覚醒してて自ら封じたパターンなら、ひよっとしたら神と何かあった可能性がある。それが分かるまでは降ろさない方がいい」
「何かあったとは? 」
「意見の相違とかかもしれんし……もしくは……」
「まさか敵対したと? 」
「そこまでは言わないけどな。後は候補から降ろした時のうちの陰湿さだ。絶対にちやほやしてた分だけ手のひら返す。それで酷い目にあったら、それを恨みそうでな。陸は結構戦闘的でイケイケドンドンだし」
「まあ、それは否定しませんね。確かに神代家はいろいろとめんどくさい一族だ」
「多分、でも俺の意見なんか通らないから、ここ一週間くらいで陸は候補落ちだと思う。だから、陸は落ちこむだろうし、気にかけてやってくれないか? 」
「それは分かってます。候補になれなかった時に私も随分と皆に陰湿にやられましたから」
そう四季が苦笑した。




