第十八部 第一章
陸は調子が悪い中で、自分が尊敬しているおじさんの四季が洗脳されている事を知って激しく動揺していた。
そして、再度倒れてしまった。
かなり調子が悪そうだ。
「どうすんの? 」
「本体が動けないのではなぁ」
「しかし、今がチャンスなのだけどなぁ」
天音達の不安を他所に子供の陸は呑気に酷いことを言う。
「何がチャンスなんだ? 」
「共有を使った洗脳だと、戦う時にも互いに使い合うから相手の技量とか能力とかよく分かる。多分、封じられていた時間が長すぎたから、結構それが不得手になってる。神代の洗脳は同じ一族である事と昔からそれなりに洗脳しやすいように一族の口伝でコントロールしていた事があるけど、魔獣を自称神が戦わせた時に思ったけど、単にフェロモンとかそういうのを強く出させて、彼らの仲間に対する求愛というか愛情を利用しただけだし。今の段階ならかなり倒しやすいと思う」
「いや、あんなフェロモンとか愛情とか求愛だけで、あんなに強くなるの? 」
「当たり前じゃない。動物だって、群れのハーレムを仕切る雄は他の雄との戦いで戦うだけじゃん。食料なんて大体は雌に獲ってこさせるし。雄との戦が無ければライオンなんてヒモだよ? 雌が強いのは当たり前だよ」
「いやいや、それは単に生物界のハーレム系の雄は群れを狙う敵と戦うようになっているからだけだし、そうやって、強い雄が独占するのは優秀な遺伝子を残す仕組みなだけでしょ。そもそも雌がなぜあんなに強いかって問題を話してんだけど。子供時は特に顕著だったけど、相変わらず陸の話は飛ぶしずれてるよね。雄のハーレムの話は雌のフェロモンによる異常な戦闘能力には関係ないでしょうに」
「だから、女性が普段から狩りをした上で強いうえに、愛情を注ぐ子供が産まれたら守る為には修羅のようになるでしょ、だから、そういうのを増強してんだよ。そしたら強いに決まってんじゃん」
子供の陸と天音が言い合いしてる。
「口伝自体が一族の洗脳の道具だとはな……」
「まあ、あり得る話ですよね」
「長い間、神の位置にあるのだから、そう言う事は確かに一族にはしておくか……」
宗主代行と英明が困り果てた顔で話し合う。
「なんか、見事に皆の方向がバラバラだね? 」
「いや、まあ、こんなもんだなぁ」
慎也が子供の陸達と英明達を見て呟いたのを大悟が苦笑した。
「それぞれ目的が違いますからね」
健が眼鏡をキラリとさせた。
「じゃあ、まずは意見と方向の統一からか? 」
「ですね。貴方が勇者っていう立場は別として、陸殿と幼馴染で、かっては神代と別れた一族の当主って言うのは大きいですよ。貴方がまとめられては? 」
健がそう勧める。
「いや、当主って感じのは無いからな。旧家って言っても言うほど旧家じゃないし」
大悟が困惑したら、そこに、出血している胸を岩魚から貰ったさらしで厚く巻いて息を荒くしている陸が間に入った。
「四季おじさんのとこに行く」
陸は初めて見せる真剣な顔で皆にそう告げた。
それは普段と違う迫力で誰も反論できなかった。




