第一部 第七章
一方、必死に茜が懇請したために、王城の方では女神エルティーナが根をあげて、ドラゴンの背中で生活している陸達の様子を教えた。
皆が生きているのを知って、茜がほっとしていた。
大悟は無理矢理役目を持たされた事に違和感を感じているのか、どちらかと言うとあまり友好的な態度を取らなかった。
茜と大悟がそうなので、慎也が仕方なく皆に愛想笑いをしたりして、間を取り持っていた。
それでも雰囲気があまり良くないので、エゼルレッド王の姫のキャサリン姫の提案で、その日は急遽に沢山のテーブルに食事を並べ、戦いの為の勇者が降臨した祝賀会としてパーティーを行っていた。
魔獣達が攻めて来るとは言え、大国ジェイド王国だけあって、豪勢な食事が並んだ。
大悟達はそれらの食事をつまみながら、その美味さに驚いていた。
食事が美味しいと言うのは文化の成熟を意味していて、やはりそれなりの国力なのが分かる。
「どう思う? 」
茜にすれ違いざまで慎也が聞いた。
「分かるでしょ」
そう茜が小さく答えた。
どちらも、釈然としないものを感じていた。
強制的に召喚した詫びも込めて、皆さまと交流の場所を……と言うキャサリン姫の言葉が慎也達には上面だけと感じる様なものにしか見えていなかった。
それと本音は同意だった大悟はテーブルの大きな皿から骨付き肉を掴んで食べた。
それは沢山の果物を絞って合わせたたれがつけてあって美味だった。
「大陸ドラゴンの食べ残しの肉を漁っているあいつらよりはマシかもしれないがな……」
自嘲したように大悟が呟いた。
「正直、仲直りすべきだったと思うよ」
慎也がぼそりと小声で呟いた。
「はああああ? あんな奴とかっ! 」
せっかく小声で慎也が話したのに、台無しの声で大悟が怒鳴った。
それを群臣達が目敏く見つけた。
「その通りですぞ。あのようなものと勇者様が仲良くすることは無い」
そう群臣達の一人で、宰相のキース・マーティン・クレバリー公爵がそれに追従した。
少し太り気味の身体であるが、身分の高さのわりにヨイショが上手そうで、大悟からしたら嫌いな部類だった。
だが、揉める訳にもいかず、大悟は無言で肉を頬張っていた。
「虎を野に放った事にならないと良いけど」
小声で慎也が呟いた。
それは実は慎也の本音だった。
慎也は陸を尋常ではない危険な人材だと思っていた。
その時は慎也は何故そう思うのかは気が付かなかった。
だが、後に知る事になる。
つまり、陸は平気で魔獣に対してすら人族と同じように対話して同族として仲良くなるのだ。
人間として決定的に魔獣に対しての距離感が違うのだ。
つまり、進む方向が違えば簡単に魔獣の側につく危険性があったのだ。




