第十七部 第一章
子供の陸が禍津族と共闘を決めたのが分かったのか、神は凜の身体を乗っ取ってから姿を消した。
逆に陸は大怪我しているが、魔獣の身体が幸いして傷は致命傷にならなかった。
何でも猫族は弱いが頑丈さには定評があり、それで大丈夫だったのだと親分に言われた話を天音が皆にする。
『刺されたのに、頑丈さは関係ないのでは? 』
うんうん言っている陸を他所に子供の陸は元気だった。
「なんだか、本当に陸なのね。子供の頃は良くこうやって突っ込みにはこだわりがあったから」
「結構、今もそうですけどね」
「何と言うか、子供時代の話をもっと聞きたい」
などと、皆は相変わらずの呑気さで、うんうん言ってる陸はほったらかしであった。
それで見かねた禍津族の神人がヒーリングも出来るので必死に傷口にかけているが、神が力を込めて一撃を入れさせていた為に、傷がなかなか塞がらず、結局天音の発言で縫う事になった。
その縫い方が荒かった為にさらに激痛で陸は動けなくなった。
『参ったな。動けそうにないねぇ』
子供の陸も呑気にそれを見ていた。
「いや、ご自分の事なのでは? 」
月兎を助けて全てに出遅れた岩魚は子供の陸の他人事のような発言にそう突っ込んできた。
神槍で不如帰を刺した消したのは禍津族の神人だが、不如帰を神に盾にされたので、その辺りで複雑な感じを見せている岩魚だったが、とりあえず役目として神の宮代として選ばれなかった事を微妙に不貞腐れている月兎を必死になだめていた。
「どうするんだ? 」
女神エルティーナの加護を受けた神人のせいと、やはり遠縁とは言え神代の血筋は持つ大悟がついでに禍津族の神人にヒーリングをやってもらったせいで一気に元に戻っていたが、陸にまたしても盾にされた事でご立腹中の大悟が子供の陸に聞いた。
『父親が生きているのは、結構、神にダメージを与えたと思う。精神体だしね。ただ、逆に警戒して、しばらく表に出てこない可能性もあるよね』
「ああ、陸を助けようとして、それを話したんだ」
慎也が少し驚いて呟いた。
『動揺させないと、多分冷静になって、先に俺の命を奪う可能性が高かったからね。ああ見えて頭はかなり良いから、ここで陸の命を取らなかったのは大きな失点だと思う』
「自分の事なのに、冷静なんだね」
陸と慎也の話に天音が不思議そうに突っ込んだ。
『まあ、人格がしばらく離れてたから自分だけど自分と少し違う感覚はあるね』
こともなげに子供の陸が聞いた。
「どこにいたんだ」
『内緒』
やはりと言う感じで大悟が突っ込むと子供の陸はいたずらっぽく笑った。




