第十六部 第七章
月兎が不満気に騒ぎまくるのを岩魚が必死に止めている。
「いやいや、乗っ取られてうれしいのか」
「本当だよ」
大悟と天音が突っ込む。
「いやいやシャーマンとしても神の宮代になる様なものだ。それは神代の神人にとっては譽だ」
「他人のものになって他人に変わるんじゃないですか? 」
茜が突っ込んだ。
「さっき、私も操られましたが、それは操られて終わった後は記憶が殆ど残ってません。単なる道具扱いだと思いますよ。誇らしく思おうにも記憶も何も残ってないのに」
智子も自分の経験から淡々と話した。
「いや、それでも誉だぞ? 」
「せっかく出来た彼氏にも会えなくなんじゃないですか? しかも、気が付いたら自分がお婆さんとか……その時に相手が別の人と結婚してたりしたら辛くないですか? 」
「げ」
慎也の言葉に月兎が絶句する。
月兎が黙り込んだので、岩魚が少しほっとした。
「いや、多分だけど。凜の憎悪がおかしいと思う。本来なら俺が候補から落ちて、皆から馬鹿にされて随分と俺は嫌な思いをさせられた。今までちやほやしていた連中が一斉に手のひらを反すわけだし。普通に考えていたなら、それを見たらいくら宗主候補として俺を羨ましく思っていても溜飲は下がるはず。それをずっと怒りを持ち続けているのはおかしい。あんな異常な憎悪を持っている自体が誰かがそうやっているとしか思えない」
陸が大陸ドラゴンを操りながら淡々と話す。
「つまり、最初からコントロールされていたと言うのか? 」
「わからない。だけど、恐らくは最初から俺の身体を得ることが出来なかった時の予備として呼んだのだと思う。子供の陸は、わざと神の前に俺の半分の精神と身体をそのままで置いたままにしてるし」
「な! 罠にしてると言うのか? 」
「えええ? 」
「何か仕掛けてるはず。それを察して次の身体の凜を呼んだのだと思う」
大悟と慎也の驚きに陸が淡々と答え続ける。
「じゃあ、凜がこっちに向かってきたら駄目じゃないか? 」
月兎が自分が選ばれなかった事を少し不満に思いながらふくれっ面で突っ込んだ。
「子供の陸はね。凜の事を殺さないように暁おじさんと茂おじさんに頼まれて、約束したんだそうな」
「ああ、そうか。まあ、姪だし娘だもんね」
そう月兎が苦笑した。
「でも、俺は約束してないんだよな……」
陸がほぞりと呟いた。
「は? 」
皆が訝し気に陸を見た。
陸は笑っていた。
今までうっぷんを吹き飛ばすような笑みだ。




