第十六部 第一章
「は? 」
陸が唖然として立ち竦んだ。
「どうした? 」
「いやいや、嫌な予感がするんだけど……」
大悟と天音が凄く嫌な顔をした。
「子供の陸が俺に警戒するようにって……。魔獣の集合無意識に神が何かしてから隠れたらしい。ひょっとしたら魔獣側から襲撃を受けるかもって……今頃言うなよ……どうにもならんじゃん……」
「じ、獣魔神ライがですか? 」
健が少し青い顔をした。
さきほど操られている時の凶暴さを思い出したらしい。
「違うみたいだけど……」
陸が真剣な顔で悩む。
「とりあえず、逃げる? 」
天音がズバリと呟いた。
「いやいや、貴方、幼馴染じゃないの? 」
「幼馴染だけど、女の子だもの」
「汚っ! こんな時に女の子アピールかよっ! バリバリの運動部の陸上部だろ? 俺は、帰宅部なんだよ! 」
「運動したらって、昔、忠告したよね? 」
「いやいや、それ、中学の時じゃん! 」
「いやいや、しょうも無い話をしてる場合じゃないでしょ」
慎也が突っ込んだ。
「正直、逃げたいんだけど、俺の魂の背後にいるんだよな……逃げれ無いよ……」
陸が真っ暗な顔で呟いた。
「大丈夫。私達もいるし。また大悟君を使えばいいよ」
そう茜が陸の手を握り締めて笑った。
「優しいなぁ」
陸がしみじみ呟いたが大悟の顔が凄い顔になっている。
「何というか、猫の着ぐるみの手を握ってるように見える」
「何か、愛らしい感じですね」
天音と智子が他人事のように話した。
「いやいや、俺はごめんだぞ! あんな状況になるのはっ! 」
たまらずに叫んだ大悟の言葉を誰もが無視した。
すでに戦うための重要な戦力なのだ。
大悟が意を決して、その場から逃げようとしたら岩魚が大悟の足に縋りついた。
「月兎様が駄目な今、貴方が頼りなのです」
ウルウルとした目で岩魚が頼む。
「駄目って! そこにいるじゃん! 」
大悟が月兎を指さした。
「いや、悪いが私は不介入で……。神代の神と神の戦いになったら神代家は不介入が不文律でな。決着がつくまでは逃げるよ」
「いや、だから、それは駄目だと。今回の任務は宗主の陸様の絶対の護衛を申し付けられてきたのではありませんか? 宗主代行の神代ユウ様に」
「どちらかと言うと、私は陸よりは神を守るぞ? 」
「それは今回は駄目でしょう? 」
「神と神の対決になった時点で、その話は無視だろ」
月兎が冷静に呟いた。
「ほら、話になんないんですよ」
そう岩魚がうるうると大悟の足にさらにしがみつく。
「いや、だから、俺はどちらかと言うと神代とは袂を分かった一族で敵に近いかもしれんのだが……」
大悟が本当に困った顔で呟いた。




