第十四部 第一章
『これが第一軍? 思ってたより少数だね。囮にする為にここにベースを作ったの? 嘘だね。あの跡継ぎの次の宗主は僕のせいで何か起きると思ってたのか……』
暁をじっと見ながら子供の陸が笑った。
「……心を読んでいる? 暁さんの? 」
『うん。そうだよ。と言っても流れ込んでくるだけ。いろんな人の思考がね』
子供の陸が笑う。
愛らしい顔で笑うのだが、日葵がぞっとした。
「神を待ち伏せしてたのか? 」
『神なんかじゃないよ。昔、僕のように神代の異端の血から産まれた変異種だよね。それが異常な力を持ったのがあいつ……那智家の方では滅びとか言うみたいだね』
「滅び……」
「ああ、向こうの伝承では……。確かに聞いたことある」
日葵の呟きに茂が頷いた。
『そういえばさぁ。僕と同い年の従妹だっけ? 凜ちゃんだっけか? 酷いね。いきなりこっちを殺そうとしたよ』
「あ、あああ。コンプレックスの塊になってんだ。うちが分家だからな……。すまない」
『……わかったよ。茂おじさん。殺したりしないから……』
「ああ、頼む。あれでもお前の従妹だし」
『いやぁ、従兄の僕を殺そうとしたのは向こうなんだけどなぁ』
子供の陸が少し冷やかに笑った。
「悪かった。詫びはさせるから」
茂が自分の娘なんで必死だ。
『しょうがないな』
「本当に陸か? 」
日葵が突っ込んだ。
日葵は候補から降りて記憶を取られて、少し居心地悪そうに本家に来る飄々とした下っ端の陸しか見た事が無かったからだ。
こんな可愛らしい顔をしてぞっとするような怖い陸ではなかった。
『ああ。僕が分離して候補を降りた後の半分の僕にしか会ったことが無いんだよね』
「……本当に半分に魂を分けたのか……」
『あまり難しくないよ。もともと人間の魂は魂魄と二つに分かれるから。だから、それに合わせて別れたのさ』
「いやいや、そんなの普通の奴には無理だろ? 」
『魚はさ、言われなくても水の中で呼吸ができるよね。産まれたときから。だって、それが普通だから。僕も覚醒して産まれた後は普通に魚のように出来ただけだよ』
「……貴方は神と! 我らが神と戦う気ですか? 」
日葵が思い余ったように叫んだ。
『さっきも言ったけど、あれは神じゃないよ。力が神みたいなだけのまがい物さ』
「いや、しかし」
『あいつはね。僕の魂を食べる気なのさ。同化する気なんだ。だから、僕が産まれた時に、神代家の集合意識の奥に封印されて静かにしてたのを僕の魂の背後に移動したんだ。僕を食べて吸収して、さらなる高みに登りたい……それは勝手だけど。食べられる僕の立場はって事になるよね……そんなの受け入れられないよね……』
そう頭に響かせながら、あまりにも強大な威圧の波紋を拡がらせた。
それは子供の陸の怒りのようだった。
それで、兵士達も日葵も立っていられなかった。
あまりにも強大な力の波動だったからだ。
※道教の考えですが、人間は魂魄として存在してて亡くなると陽気の霊を魂となり陰気の霊を魄となると。神道も似た考えです。まあ霊能者の話とかだと、魂の方はどこかの集合無意識に行っちゃって、墓に入り幽霊として見えるのが魄だそうです。残留思念と言っても魄の方は通じそう。陸の場合はその陰陽に分かれるのをそれぞれ分化した精神の入れ物と活用したと見てください。




