第十三部 第七章
<アークブレイド>は陸の背後の扉の虚空を穿った。
だが、すでに、滅びは籠城していた。
月兎は倒すためのものではなく、自分が戻る為の捨て駒だったのだ。
『ちっ! 我らの神なんだろう? 何故、逃げるっ! 』
子供の陸が憎々しげに呟いた。
「<アークブレイド>! 」
大悟は連発できないのに、再度自分の必殺スキルを使用していた。
再度、陸の背後の虚空を穿つ。
だが、すでに大悟の目には何もない空間に見えた。
「待て待て待て! 俺を使うなっ! 巻き込むなっ! 」
大悟が泣きそうな声で叫ぶ。
それほど、この滅びと子供の陸との間に入るのは本能的にも恐怖を感じる事だった。
陸は子供の時の陸を見て唖然と固まったままだ。
『禍津族のおじさん』
『おじさんって……まだ若いのだが……』
そう初めて禍津族の神人が開いた口は全然関係のない事を呟いていた。
気にしていたのかもしれない。
『あいつ。僕が倒すから。だから、貴方方の神様に伝えて。手を出してくるなって』
そう子供の陸が辺りに響かせるような威圧を行った。
それは最初の滅びが行ったよりも大悟には鋭い威圧だと感じた。
「あ、ああ……」
『じゃあ、大きくなった僕と大悟と天音。またね』
そう、子供の時にたまに見せる怖さはあるものの、凄く凄く優しい表情で子供の陸は笑った。
それは他のそこに居合わせたものを、蕩けさすような魅力に溢れた優しい微笑みだった。
そうして、子供の陸は姿を消した。
まるで掻き消えるように……。
陸がその場に崩れるように膝が折れて座り込んだ。
大悟も勇者の剣を投げ出して、頭を振ると座り込んだ。
月兎はその場で痙攣して動かなくなった。
洗脳の暗示が消えたのかもしれない。
岩魚や智子や茜だけでなく健と慎也も蕩けさすような微笑みを見て、なぜか身体と言うか心に温かいものが流れる。
久しぶりに会った親しい人が笑みを浮かべるように。
それほど子供の陸には異様な魅力があったのだ。
「……最後の笑顔はともかく。俺って子供の時、あんな怖い表情してたっけ? 」
陸の疑問の呟きは皆の思いと全然違う方向に向かっていた。
「あーあーあーあー」
「あんな感じだったよ」
大悟は頭を抱えて混乱していたので、仕方なく天音が苦笑して答えた。
そして、岩魚は動かない月兎を抱いて、そして禍津族の神人は同じように途方に暮れた顔をした。




