第十三部 第六章
巨大な波紋が水面に広がるように、それに映ったものが歪むように歪みが酷くなっていく。
子供の陸が攻撃していた。
『貴様! どこにいた! 自分の精神から切り離したのか? 』
神たる扉の向こうの滅びが震えているような声を出した。
子供の陸はさらに力を増やした。
波紋に波紋が拡がるように世界が歪んでいく。
大悟が聞いた話だと、他人や他の生物を操って、まるで人形遣いのように相手を倒すと聞いていた。
だが、子供の陸はそれを強引に直接対決に持って行っていた。
「なるほど、直接対決は苦手と見たのか……」
大悟が陸の子供を感心して見た。
状況が変わった。
まだ滅びに対する禍津大神の封印は解けていなかった。
大悟の目には扉に再度鎖が巻き戻って行くように見えた。
どうやら、少し子供の陸が現れるのは早かったようだ。
子供の陸はその封印を強引に破壊して、中の神を引きずりだそうとしていた。
そして、滅びは逆に封印を使って、中に籠ろうとしていた。
直接対決が苦手だと言う子供の陸は正しかったようだ。
『少し焦ったようだな。まだ我に運はある。殺せっ! 』
そう滅びが皆の頭に響かせる。
それは月兎に向けての命令だった。
「おおおおおおおおお! 」
月兎が絶叫して動く。
まるで、あの時のチョロ熊さんの娘達の我を忘れた戦闘行動に似ていた。
羽交い絞めにしていた岩魚を振り落とすと、凄まじい動きで子供の陸に襲い掛かる。
今度は大悟が動いた。
いや、動かされたのかもしれない。
今度はあれほど威圧で恐れていた身体が動いて大悟は剣を抜いた。
「<スラッシュ(斬撃)>! 」
その勇者の剣と月兎の懐剣とが打ち合わされる。
凄まじい勢いの連撃が互いの間に繰り返される。
その結果、ほんの少しだが大悟が勝った。
恐らくは勇者の特別な女神エルティーナの剣と子供の陸の力の後押しのお陰だろう。
普通の懐剣ではさすがの月兎も分が悪かったのかもしれない。
その打ち合いを見ていた岩魚がとりあえず、月兎が半狂乱になって暴走しているので、身体を変形させて、両手を縄のようにして懐剣を落とした月兎を抑え込んだ。
『へぇぇぇ、もう一つ上のスキルがあるんだ』
子供の陸がにやりと大悟を見て笑った。
「待て待て待て待て待て! 」
大悟が絶叫した。
抗おうとしたが無理だった。
「<アークブレイド>! 」
大悟は勝手に叫びながら陸の背後の扉へ突撃して一撃を加えた。
天音は大悟のみっともない悲鳴とトホホな顔を初めて見た。
そして、子供の陸は大悟を巻き込まないであげてと頼んでた事を忘れていた。




