第十三部 第五章
『良いだろう。貴様を使おう』
そう声が響く。
凄まじい威圧だ。
その時、大悟はまた陸の背後に扉を見た。
その扉の鎖が伸びて一気に開く。
扉からまた、あの目が覗いた。
それはホルスの目のように見えた。
いや、頭はスキンヘッドで全身に文様を刺青で刻印した何かがそこにいた。
『貴様っ! すでに封印をっ! 』
頭に悲鳴が響く。
それと同時に、凄まじい歪みが、その禍津族の6本の腕を持つ男に生じる。
それは全身の螺旋の刺青によって防がれた。
「……そうか、あの刺青は相手の精神コントロールを弾くんだ」
陸が唖然として呟いた。
「え? そうなの? 」
月兎が驚いた。
『無駄なことを。貴様如きでは無理だ』
さらに扉が開く。
禍津族の男の螺旋の刺青から血が噴き出す。
そして、その歪みはこちらの空間にも響く。
大陸ドラゴンの背中の木々が震える。
凄まじい波動で、健や智子が頭を押さえて、座り込んだ。
幸い、神人である月兎が言う通り、神の加護を得ているせいか、慎也も茜もその影響は防がれているようだ。
後天的な神人になるというのは本当かもしれない。
実際に、神人である月兎はその衝動に合わせながら、禍津族の男の隙を伺っている。
一気に攻撃するつもりだろう。
「駄目だ。扉が完全に開く……」
大悟に見える扉は完全に開いていく。
鎖は引きちぎられはしないが引っ張られて伸びているように見えた。
『貴様っ! 』
『所詮、貴様も禍津族の神人と言えども、その程度よ。我に配下が操られる危険を感じて、一人で来たのは感心な事であるがな……』
そう勝ち誇ったように滅びの感応で頭に響く言葉が聞こえた。
「禍津族の神人でも勝負にならないのか……」
大悟が絶望的な顔になった。
「ぐぉぉぉぉっ! 」
身体も心も組み替えられるように感じる歪みを受けて、禍津族の神人が叫んだ。
だが、その時だ。
異常なことが起こった。
『貴様っ! 待っていたのかっ! 封印が解ける瞬間を! すでに覚醒していたのかっ! やはり、我に並ぶ逸材であったかっ! 』
目の前の空間に陸が現れた。
それは子供の姿。
そして、それは皆の目にも見えていた。
「え? 子供の陸? 」
天音が驚いた。
瞬間、滅びの力が緩み、大陸ドラゴンの背中だけでなく、地上にすら凄まじい力の波動を受けて木々が折れていく。
怪物の目覚めに合わせて怪物が待ち伏せしていたのだ。
「え? なんで? 」
陸が自分の子供の時の姿を見て困惑していた。




