第十三部 第一章
<8年前>
まだ明るくなってきたばかりの早朝に老人が屋敷の入り口を掃除している。
屋敷には綺麗な庭園があり、それから葉っぱがどうしても落ちるから、それを掃いているらしい。
門もそれなりのもので、地元でもそこそこの名士のようだ。
桧で出来た古い表札には那智と書いてある。
彼は那智大悟の祖父の那智一郎であった。
息子に県会議員の地盤を譲ってからは家でゆっくりとした生活をしていた。
それで今日も庭の手入れと掃除をしていた。
いきなり、ぞっとする。
那智一郎が背後を見るといつのまにか少年が立っていた。
それを見て驚く。
誰もいなかったはずなのに。
「君は? 」
一郎がそう聞いた。
その少年は異様なまでの目力を持っていて、異様な雰囲気を持っていた。
しかも、寝間着のままで、この場所に不釣り合いに感じた。
「……お爺さんはこれを知ってるよね。僕の心の中にいる奴を……何なの? 」
「え? 」
「滅び……? 滅びって言うんだ……。そうだよね。ちょっと禍々しいから……おかしいと思ったんだ……」
「なっ! き、君はどこでそれを? 」
そう一郎は聞いて、少年が靴を履いてないのに気が付いた。
「大悟に僕をもしもの時は殺すように命じて暗示もかけていたんだ。それで、あいつ、たまに妙な時があったけど、そのせいか……」
「え? まさかっ! 」
一郎が自分の心を少年が読んでいるらしいのに気が付いて、絶句した。
まさか、まさか、神代陸?
顔は写真で知っていたが、雰囲気が違い過ぎた。
「大丈夫。まだ滅びは起きてないよ。封印されたままだ。だから安心して……ふぅん。そんなに危険なんだ。これ……」
その少年は異様な迫力で、一郎を見た。
全てを見透かすような目だ。
「わかった。大悟は巻き込まないであげて。お願いだから。僕の大事な友達なんだ」
そう、その少年……神代陸は呟いた。
「あ、ああ……」
一郎は辛うじて返事をした。
「これは僕が倒すから。安心して。那智家とその仲間に伝えて……。僕が滅びを倒すから……」
「ええ? し、しかし……。君たちの……先祖で神様なんだぞ……。まあ……うちの先祖でもあるが……」
一郎の声が震える。
「この身体は僕のだ。そして、魂も僕のだ。だから、あいつにはやらない」
神代陸は全く動じずに答える。
一郎は身じろぎもせずに、その言葉を聞いた。
「だから、心配しなくていいから、大悟には優しくしてあげて」
神代陸はそう言うと姿を消した。
一郎は長い事固まったままになって立っていた。




