第十一部 第一章
凛とヘンリー騎士団長はさっさと城に戻っていた。
「一発かましてきたわっ」
「大陸ドラゴンの背中が燃え盛っていましたよ」
凜が吹聴し、ヘンリー騎士団長がそれを見てきたと威張るという有様であったが。
凜は意気揚々としていた。
英明はまだ装備が重いせいで帰っていなかった。
そして、王宮の謁見の間の前の廊下の鏡を見て、自分の服装のおかしなところをチェックした。
王に報告する前に、身だしなみをチェックしていたのだ。
まだ凛はなっていないが、彼女はいずれ神代家の全てのシャーマンの宗主に選ばれれば、全ての神代家を率いて、あちらの世界だけでなく、この世界に君臨するのだ。
彼女は神代とは名字が違う分家だった。
陸は忘れているが、凜は覚えている。
同じ宗主候補者だった事を。
だが、覚醒の為の修行の段階であからさまに待遇は違った。
それが許せなかった。
飛んできたせいで少し乱れのある髪を直しながら、男如きが宗主などと所詮は無理なのよと凛は独り言のように思う。
彼女の祖母は現在の神代家の宗主で、陸が失敗した時点で先代の宗主が意気消沈して代替わりしたのだ。
その後を次の次の代の宗主として継ぎたかった凛は、その為にこの汚れ仕事を引き受けたのだ。
人族を操り、禍津族に近い魔獣族の力を削ぐ。
そして、自分の代になった時にこの世界の侵攻を開始するのだ。
故地を取り戻す。
神代の英雄として自分は認知される。
「御門だからと、分家だからと馬鹿にしていた神代家の本家の連中に思い知らせてやる」
それが御門凜の本心だった。
母が分家に嫁いだために、御門家に生まれてしまったのだ。
祖母が本流の神代家だったのに、だから宗主になれたのに。
それは彼女にとって許せない現実だった。
だから、彼女は祖母に進言して、こちらの女神エルティーナを宗主の精神感応で味方にして、エゼルレッド王とジェイド王国の欲に火をつけさせたのだ。あの魔獣どもの住処の鉱山を奪えと。
全てはあの失敗作だった陸が来るまではうまくいってたのに。
あの男が大学教授に養子になるのも、慣例ではあるが、出来損ないは神代を名乗れない。
最近は緩んでいたけど、私が宗主に進言してそうさせた。
私が宗主になった時に、あの出来損ないが本家でうろうろしているとか冗談ではない。
凜は自分より先に候補に選ばれて特別扱いされていた陸を心底憎んでいた。
その時だ。
目の前の鏡にぼんやりと祖母の姿が映る。
『緊急の話がある』
「は? 」
凜が驚いた。
確かに、これは神代家のものにしか見えないものだ。
それでも、今までは隠ぺいのために、一人でいるときしか連絡は来なかった。
なんで、こんなヘンリー騎士団長が後ろにいるところで……。
「まだ、鏡とお話ですか? 自分はどれほど美しいか呟くナルシストっていうんでしたっけ? 英明殿に聞きましたが」
「はあああああ? 」
凜は鏡で会話しているのだが、姿も声も聞こえないために、鏡に自分で自分に話しているように見える。
凛は隠れてやってたつもりだったが、皆には実は見られていたのだった。




