第十部 第十章
凄まじい地響きをあげて大陸ドラゴンが地面に降りる。
抗い続けていたが、命を搾り取るような力で、大陸ドラゴンは飛ぶことが難しくなった。
そして、大陸ドラゴンが地上に降り立つ衝撃で背中の陸達が揺れる。
陸達は爪を伸ばして衝撃を受け止めた。
だが、大悟たちは違う。
大悟が一瞬にして剣を地面に突き立てて茜を捕まえて落ちるのを止めた。
慎也は健が抑えて止めた。
そして、陸は地上を見て震えた。
チョロ熊さんの娘たちはバーサーカーのように禍津族に血まみれになりながら戦い続けていた。
陸の震えは自分の貞操を考えてだったが、大悟も陸の背後を見て震えていた。
今、相手は封印されたままだ。
それがほんの少し緩まっただけ。
それなのに、完全に魔獣は操られていた。
大悟は代々の神代家と別の那智家の口伝が本当であることを知ってしまった。
「ちょっとぉぉぉ! 危ないからっ! 」
天音が絶叫して智子を止めた。
智子は寄生魔獣の猫の中にいて、昔から喧嘩などしたことはない。
なのに、狂ったように禍津族の攻撃に参加しようとしていた。
意味不明の絶叫を挙げながら。
それは全ての寄生魔獣の雌達にも伝わった。
彼らは弱小。
弱小の部族ゆえに、大陸ドラゴンの背中で寄生魔獣として、ひっそりと暮らしていたのに。
彼女達は、まるで猛獣のように絶叫をあげてチョロ熊さんの娘のイーグルベアの凄まじい戦いに参加した。
全てが狂っていた。
「よせ! よさんかっ! 」
このままでは禍津族のものを殺してしまうと、とうとう獣魔神ライが転移してきた。
それがどういう事になるか、彼女には想像がつかなかったのだ。
「なぜだ! いるではないか! 奴は封印されたまま異界に逃げたのではないのかっ! 」
禍津族の一人はイーグルベアの雌に腕を一つ噛み千切られていた。
それで、叫んだのが限界で血が流れすぎて、その場にへたり込んだ。
「馬鹿な! 人族に憑いたゆえに、人族とあまり仲の良く無い魔獣が味方になったおかげで<滅び>は封じたまま異界に追い出せたのに! 何故、人族の敵のはずの魔獣から気配がするのだっ! 」
もう一人の禍津族の一人は絶叫しながら蛇のようになった刃の槍を陸に向けた。
「え? 腕が四つ? え? 」
陸が動揺した。
陸はまだ試しの段階で排除された。
だから、自分達の敵について詳しく知らなかった。
だが、大悟は違った。
腕が四つや六つある阿修羅のような姿で螺旋の刺青をして、祝詞を使い敵を滅ぼす超常の力を持つのが禍津族であると知っていた。
その時、異様な感じがして大悟が陸の方に振り返る。
鎖をしているのに、扉が少しあいたような気がしたのだ。




