第十部 第九章
チョロ熊さんの娘を含む雌達が手が四つある全身に螺旋の刺青を入れた二人の禍津族の男二人に襲い掛かる。
まるで、何か強力なバフを受けたように狂騒的に攻撃をする三体のイーグルベアを見て、獣魔神ライが驚く。
禍津族の一人が大陸ドラゴンにあてた強力すぎる威圧をイーグルベアの雌に向ける。
それによって木を次々と折るほど跳ね飛ばされたのにもかかわらず、雌たちは血まみれになりながら狂騒的な攻撃を止めない。
全身を躍らすように、羽で飛ぶことも使いながら、我が身を気にしない凄まじい攻撃を禍津族の男達に続けた。
「まるで決戦の時に命を捨てて戦っているようではしないかっ! 雌どもを止めよっ! 様子がおかしい! 我らに不介入を常に行っている禍津族が今回初めて介入してきておる! 様子がおかしい! 」
獣魔神ライが金色のヨルスズメを通して絶叫する。
「お待ちを! 獣魔神ライ様と言えど恋を止めるなど、魔獣にあるまじき事。子宝は大切ゆえ。それはあらゆるものに優先されるというのが掟ではないですか! 」
チョロ熊さんが叫ぶ。
陸が雌のイーグルベアの戦いの雄叫びを聞いて、小鳥のように震えていた。
だが、大悟は別のものを見ていた。
陸の背後に何か異様な鎖で巻かれた扉が見える。
その奥から尋常で無い気配がする。
「……誰かいる。眠っているけど、誰かいる……。陸の魂の中に寄生しているのか? 」
陸が女神エルティーナによってクラスとスキルを与えられ、獣魔神ライが追加でクラスとスキルを与えたことでチェーンの巻かれたように見える扉が少し歪んできているようだ。
「扉の鎖は切れていないし、中の何かはまだ寝たままだ。なのにこれほどの力を振るえるのか? まさか、口伝は本当なのか? 男のシャーマンを作ることで扉を開き、中の神代家の神を起こすと……」
凄まじい竜巻が起こりだした。
蛇のような力を持つ槍を天に向けて繰り出すように、大陸ドラゴンにあててきた。
禍津族の二人はすでに凄まじい捨て身のイーグルベアの数頭の攻撃を受けて血を流しながらも、敵のイーグルベアを見ていなかった。
見ているのは気配のする大陸ドラゴンの背中……陸がいる場所であった。
彼らは確かめなければならない。
「<滅び>が帰ってきたのか調べねば」
「予言通りに<滅び>が帰ってきたのなら、この世界も奴等が逃げた世界も全て廃墟になる。……それが禍津大神である……我らが禍津族の神の予言だ。全てを滅ぼすものが帰ってきたのかもしれないのに、我らの命など……落ちろ! 大陸ドラゴンよ! 地上に降りるのだ! 」
凄まじい禍津族の力と、彼らの言う呪い言葉……祝詞が炸裂する。
全身が血まみれになりながら、彼らは凄まじい言葉の羅列を紡ぎ続けていた。




