第一部 第一章
目の前に飛び散ってくる肉を陸と健と智子が拾う。
「いやいや、これを食べるの? 正気なの? 」
天音が叫ぶ。
「他に食べるものが無いだろ? 」
「いやいや、このドラゴンの背中から降りれば……」
「地上は魔獣の凄いのが一杯いるから、ここに居ないと死ぬんだそうだ」
「誰がそんな事を……」
陸がそこで肉をハムハムと食べる猫を指差した。
「うぉぉぉぃ! 」
天音が突っ込む。
「でも、先住者に聞くと言うのは田舎暮らしをする場合でも普通でしょう」
健がメガネを指で突きながら話す。
「いや、亜人に転生したのにメガネをしたままかよ! 」
「いや、それを言うなら服もそのままでしょ? それに転生でだいぶ良くなったけど、目が良くないのは確かですから」
「ずっと眼鏡をつけていたから、無いと寂しいですし」
「いやいや、馴染むの速すぎだろ! 」
「まあ、彼らは優れたサバイバリストだから」
「そんな話、初めて聞いたわっ! 」
「まあ、食べるものが無いと生きていけないですしね」
「その通り」
「威張るなや! 寄生虫とか病気とかどうすんだよ! 」
「いや、それを普段から食べている寄生魔獣に転生したわけだから、それに対する対策はこの猫みたいな身体が持ってるだろ。それに肉は焼くつもりだし」
そう陸が爽やかに笑った。
「焼く? 」
「ライターあるし」
「ドラゴンの背中で? 」
「広大な背中に土を被って木まで生えてんだから、土の上なら大丈夫だろ。そもそも飛んでるのに土がまき散らされないのは、土の中にドラゴンの背中にがっしりと根を張り巡らしている植物があるせいみたいだし。それと普通にサバイバルの世界では、燃えたらいけないものの上で焚火をする時は土を敷くし」
陸の言葉に健と智子がコクコクと頷く。
「いや、そんな知識いらねぇからっ! 」
「でも、生で食べるの嫌なんだろ」
「あぅぅぅぅ。寄生虫とかいそうだし」
「俺らは寄生魔獣だから」
「そんな納得の仕方は嫌だ! 」
天音が叫びまくっていた。
「だけど、こちらの世界に来る前から飯を食べて無いしな。せっかくの肉だし、まずはそれを腹に入れて早くシェルター作りをしないと」
「シェルター作り? 」
「本当は食べるよりシェルター作りが最初なんですけどね」
「ええ」
健と智子が困ったものだと言う顔で天音を見た。
「いやいや、順応が早すぎるだろ? 」
「何をおっしゃる。強いものや賢いものが生き残るのではない。変化に対応できるものが生き残るのです」
そう健が話すと智子がコクコクと頷いた。
そう騒いでる間に、陸が近くの木の脆そうなのを折って焚火を始めた。
「え? この木って燃えるの? 」
「今聞いたら、彼らによると普通の木々の中に、生木でも燃える奴と切ると水が出て飲める種類もあるそうな。焚火の下を土にしなくても、水を含んだ木を下に敷いて焚火をすれば良さそうだ。最初に水を含んだ木を並べて、上に普通の木を敷いて土台として、その上で燃える木で焚火をしたらいいと思う」
陸が猫みたいな寄生魔獣と話して笑った。
「おいおい、ファンタジー世界とは言え何でもありだな」
「そもそも、空を飛んでいて土に根が張っているからとはいえ、ドラゴンが空を飛んでるのに我々が平気なのが不思議ですし」
健が苦笑した。
「いや、ドラゴンがバリアを張ってるらしい。それで背中の土は飛ばないんだと。で、魔獣を大陸ドラゴンが捕食する時だけバリアを弱くするからそれで皆で飛ばないようにしがみつくんだと」
「いや、そんな知識いらないからぁぁ! 」
天音が泣きそうな顔になった。




