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1.ハロゥキティを着用したくない

本作に登場するマスコットキャラクターはハロゥキティです。某社の〇ロー〇ティとお間違えのないようよろしくお願いいたします。

 ある雨の日の夕方、俺は胸部と背面にヨンリオのマスコットキャラクターであるハロゥキティがデカくプリントされたショッキングピンクのレインコートを羽織って札幌の中心街を全力疾走していた。


「すいません!ちょっと通してください!すいません!」

 ヒャアッ!

「あ、お婆さんすいません!驚かしちゃって!急ぎなもんですいません!」

 ワンワンワンッ!

「どけや犬ッコロがあ!」

 カシャカシャカシャ!

「おいっ!そこの高校生!写メ撮んなや!スマホ向けんな!」


 顔を隠したいとこだが、走り始めてすぐに呼吸が苦しくなったためマスクは外してしまった。


 くそぅ……何で俺がこんな目に……加戸村(かとむら)の馬鹿が!帰ってきたら一杯奢ってもらうくらいじゃ済まさんぞ!


 内心でこの恰好で全力疾走する羽目になった元凶である同僚の加戸村を罵りながら俺は走り続けた。


 ◇◆◇


 話は10分ほど前に遡る。


 今日は定時で事務仕事を切り上げ、これから重要取引先の接待に向かうのだが、雨が降ってきていたので、社の入っているビルの共用男性ロッカールームに傘を取りに来ていた。


「あー、風出てきたみたいだな。ちょっと濡れるかもしれねー」


 そこでなんとなく、ロッカールームに備え付けのハンガーラックに目を向ける。


「だからってあれ羽織(はお)っていくわけにいかねーしな。ま、傘で十分だろ」


 ハンガーラックにはハロゥキティがプリントされたショッキングピンクのレインコートが掛かっている。

 俺が入社以来そこに掛けっぱなしで、誰かが使用しているのを見たことはない。

 身長180センチ体重100キロの俺が羽織っても足首まで覆われそうなそのデカいレインコートはこのビルの七不思議の一つと言われている。 


 ロッカールームから出ると知り合いと鉢合わせした。


「お、童部(わらしべ)か」

「……滝田(たきだ)君、お疲れさま」


 童部美紗姫(わらしべみさき)は、このビルに入っている別の会社の女性社員なのだが、ひょんなことからよく話す仲になった。

 ボブというより“おかっぱ”といった感じの髪型とどこか市松人形のような和風っぽい容姿から俺は密かに“座敷童(ざしきわらし)”とあだ名を付けている。


「……新作をアップしたので良ければ見てほしい」

「おう、後で見とくわ」


 童部はネットに動画をアップするのが趣味で週1回は新作を上げている。

 動画は小学生達と全力で鬼ごっこをしたり(全員コスプレして身バレを防いでいる)、犬同士が鼻を突き合わせてコミュニケーションしている映像に『ジョ~ン、ウチのハニーが車にキズ付けちゃったんだよ~』『ハハッ、ボブ、そんなときにはこのスプレーさっ』などとアテレコしたりと、普段の童部の印象からかけ離れたアグレッシブでふざけた内容のものが多い。


「……それじゃまた明日」

「それじゃ」


 女性ロッカールームに入る童部に手を振り、エントランスから出ようとしたところで着信が入った。今日これから深夜長距離バスで出張する予定の加戸村からだ。そろそろバス出発の時刻だと思うんだが何かあったのか?


「滝田!どこに居る!?」

「ビルのエントランスだけど」

「間に合った!いや今会社に電話したら誰も出なくて」

「今日はもう皆上がったからな」

「あっちの社長へのお土産会社に忘れた!今バス乗り場にいるから持ってきてくれ!」

「はあっ!?何やってんのお前!」


 あのめんどくさい社長(じーさん)への土産忘れただと!?何で宅配使わなかったんだ!……ってウチの経理が許すわけねーか。出張する奴がいるならそいつに持ってけって言うよな。


「ああっ!?バス来ちゃった!俺は運転手さんに出発待ってもらうようお願いしてみるから!頼む!持ってきてくれ!」


 やばい、かなりやばい。あの社長(じーさん)の機嫌損ねたら下手すればウチの会社が吹っ飛ぶ!

 とにかく俺は全速力でオフィスに戻りお土産の包みを抱えたがそこでハタと気付いた。

 お土産を濡らすわけにはいかない。

 けど、俺のリュックには絶対入らない大きさだ。これを濡らさないよう更に包めるものなんてあるか?

 あったとしてこの風雨の中そんなもの抱えて走ったら傘をさしても俺自身がびしょ濡れだ。俺もこの後接待があるのにそれはまずい。

 タクシー?この時間帯、渋滞でバス乗り場までどんだけ掛かるか分からん。走った方が絶対早い。


「!そうだっ」


 閃いた俺はロッカールームに走り、ハロゥキティがプリントされたレインコートを羽織(はお)った。おみやげもコートの内に入るようにして抱え、ファスナーを閉めてフードを被り外に飛び出したのだった。


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