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片想いとそれぞれの愛  作者: 灯些季
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ミツキ

  [ミツキ]

 

 僕は幼馴染おさななじみの壱流いちるが物心付いた時から好きだ。でも壱流にはずっと好きな人がいる。

 だからこの想いは胸にしまっておくと決めた。むくわれたいなんて思わない。だからいつまでも変わらない距離きょりにいたい。幼馴染みのままなら離れずに見ていられる。

 僕たちは基本的に遊びに行く時は一緒だ。だけど今日は違った。

 待ち合わせ場所の映画館の前には丈瑠たけるだけがいた。

「壱流も来るんじゃなかったの?」

 急用が出来たから先に行って欲しい、上映時間少し遅れるかもしれないけど行くと聞いたばかりだったのに。

「もちろんそうだったけどな、さっき連絡が来て姉さんの用事に引っ張り出されたみたいだ」

 残念に思うのと同時に彼女が相手なら仕方ないと納得してしまう。壱流は昔からお姉さんには頭が上がらないのだ。そんな彼女にもちろん僕だってかなわないからもう諦めるしかないだろう。

 それと同時に何故自分にでないのかと思ったが今日は丈瑠に呼ばれての外出なのだから呼んだ相手に伝えるのは当然かと納得することにした。

「じゃあ行こうか」

 今日は前から観たいと話していた映画を観るんだ。僕と丈瑠はこの映画の原作が好きで行きたいと話していた。その時壱流も気になっていたと言うから3人で行く事になってた。

 そういえば昨日の朝どこまで読んだか聞いたら最初の数ページしか読めてないって言ってたな。だったら今日は観に行かなくて良かったと言う事になるのだろうか。

「ねぇこの映画は原作読んでいるのといないとじゃあ感想違うかな?」

「どうだろう。俺は知っている方が面白いと思うよ。」

「じゃあ壱流はまだ観なくて正解かな。」

 正直僕も原作があるのだからそちらを先に読んでもらいたいと思う。だから本貸したのになぁ。だったら読んでからまた一緒に観に行けばいいか。

「そういえば丈瑠と学校の外で会うなんて初めてだね」

「そうだな、今日はよろしくな。」

 というか僕はひかえめな性格だから壱流以外と出掛けるなんて初めてだ。この映画の原作についてや挨拶程度は話したことあるけどそれだって壱流が近くにいたから出来た事だ。だから何を話せばいいんだろう。

 丈瑠は性格は明るくて誰とでも仲良くなれる、わかりやすく言えば僕とは反対な存在なんだ。そんな人がどうして僕なんかと関わる事になったかというと壱流のお陰だ。壱流も誰とでも仲良くなれるけど家が隣同士という縁のおかげで僕と家族ぐるみで仲がいい。そして意気投合いきとうごうして別のクラスの丈瑠と友達になったのだからすごいと思う。

 僕は壱流がいなければダメだ。壱流さえいれば誰もいらない。

 いつもそう思っている。

 

 僕たちは喫茶店でお昼を食べながら観たばかりの映画について話す。

 正直期待以上に面白かった。俳優さんのことはよくわからないけど主演の2人は動きも話し方もとても良くて本当に原作からそのまま出てきたように思える納得さだった。丈瑠もそのことを絶賛ぜっさんしていて、その役者さんたちのことは以前から知っていたみたいだ。詳しく聞くと特撮作品のヒーローをやっていたそうだ。

 その役が好きになりその俳優さんが主演と知って映画とても楽しみにしていたみたい。だから壱流もこの映画みたいって原作読んだことないのに言っていたんだ。

 あれ、それってヒーロー物が好きな壱流みたいに変身ポーズの真似をしたりセリフ言ったりしたのかな。そう思うとなんだか可笑しいな。

「えっそこ笑うとこ?あー・・・いい歳してヒーローが好きってやっぱ変だよな」

「ごめんっ変っていう意味じゃなくてなんか可愛いなぁって。あっっ男なのに可愛いなんて嫌だよね?えっと、その微笑ほほえましいなぁって」

 丈瑠の顔が真っ赤になっていく。

 けしてバカにしたわけじゃないけどうまく伝えることができない。

「ああうん、ガキみたいだよなぁ」

「そんな事ないっ丈瑠ってもっと遠い存在だと思ってたんだ。でも壱流みたいにヒーロー好きでそういう話し聞くから身近なんだなって思ったんだ」

「あぁそうか壱流か。そう、だよな」

 あれ、なんだか落ち込んだような感じだけど僕変な事言った?もしかして遠い存在って良くなかったかな。た、確かに今日の映画の原作シリーズについて何度か話しているのにそういう他人たにん行儀(ぎょうぎ)は嬉しくないかも。

「丈瑠っていろんな人と友達になれるし明るいしカッコいいから僕とは正反対だなぁって思っているから僕からは遠いって言い方したけど嫌って意味じゃないからね。」

「俺ってカッコいい!?本当に?」

「本当だよ。その、同性からみても憧れるって意味だけどっ」

 僕が壱流のこと好きだからかもしれないけど変な意味だと思われて引かれても困るからつい言い訳じみたことを言ってるかもしれない。

「だったら俺もっと充希と話したい。色々行きたい。もっと身近な友達になりたい。」

 真剣な顔で言われた。

 どうしてそんな顔かわからないけど僕も普段以上に丈瑠とすごしたせいか興味は持てた気がする。

 頷くと笑顔を向けられる。表情がよく変わると思う。


 その日は家に帰ると眠気が強くなってきた。

 珍しいメンバーで出掛けたから疲れたかもしれない。やっぱり壱流がいないと緊張してしまう。もうすぐ夕ご飯だけど少しなら寝てもいいよね。

 僕はベットの上に寝転がり目を閉じた。


「おーいミツキそろそろ起きろよ!」

 体を揺さぶられている。誰?もしかしてイチル?映画見たがっていたから聞きに来た?

 揺さぶりをやめる様子ないので僕は目を開ける。 

「なんだよまだ寝るには早いだろ?」

「そんなこと、え・・・・・どうしているの?」

「どうしても何もお前が今日イチルちゃんと初デートだったからどうだったか聞きに来たんだよ」

「は?」

 眼の前の男、タケルがニヤニヤしながら聞いてくる。

 なにそれ、イチルちゃん?デート?それにいくら今日少し仲良くなったからってこの距離感は違くない?

「待って意味わからないけど」

「デートは言い過ぎか、イチルちゃんと友達と映画観る約束が友達が急に来れなくなって2人きりって焦って俺にLineを送ってきただろ」

「はぁぁっっ?」

 まって、理解が出来ないってレベルじゃない。何が起こってる?

「どういうこと?イチルの事どうしてちゃんづけなの?それに今日僕と映画を観に行ったのはタケルだけど」

 そこまで言ったあと僕はタケルに家の場所を伝えていない事を思い出す。いや、イチルの家は知っててそれから僕の家に来たとか、いやいやそうだとしてもここまでフレンドリーはやっぱりおかしい。

「あのさ、僕とタケルは隣のクラスの友達なんだよね?」

「同じクラスだろ?それに友達っていうか幼馴染みなんだけど」

「幼馴染みはイチルだよっっ」

 思わず叫んだ僕をタケルは呆然とした顔で見る。

揶揄からかうなよ。そんなわけないだろ、ってお前がそんな顔で冗談いうなんて考えられないし・・・・・よくわからないけど情報整理するか」

 見たところ僕の部屋は変わりないらしい。机の上にあるシャープペンとノートをベットから起き上がり手に取る。

 その時机に飾られているフォトフレームに入った写真に目が行く。僕の記憶では高校に入学した時にイチルとツーショットで撮った写真なのにイチルのいた場所にはタケルが写っている。それが幼馴染みというのは本当なのだと証明された気がした。


 どうやら昔からの幼馴染みはイチルではなくタケルで、隣のクラスでタケルと同じ委員会で友達になったのが女の子のイチル。そして僕とはタケルを通して知り合いとなり試験前は僕がイチルに勉強を教えていて仲良くなったらしい。

 で、タケルは僕からイチルのことが好きだと相談を受けていたそうだ。

「女の子っていうことが想像できないけどそうなんだよね」

「じゃあそっちの知ってるイチルちゃん男なんだ!?」

 信じられないとでもいうようにタケルの声が大きくなる。

 そうなるよね。僕だって女の子だってこと信じられないんだ。

 僕は自分の知っている事を話す。もちろん僕が男のイチルが昔から好きってこともだ。そして僕の知っているもう1人の幼馴染みでイチルの片想いの相手は同じ学校にはいるが全く関わりのない人物となっているそうだ。

「これってパラレルワールドってやつじゃないか?別の次元ってことだろ、生活している人物はだいたい同じみたいだし。」

「そんなS Fみたいなことあるわけないって言いたいけどでもそういうことだって認めるしかないんだね。僕は元に戻れるのかな」

「さあな。けどミツキにとっては良い世界じゃないのか?俺からみてイチルちゃんミツキの事まんざらでもなさそうだし何より同性だって事気にしなくてもいいだろ。」

「それはそうかもしれないけどイチルが女の子だなんて想像できないな」

「まあ明日学校だから会うだろ」

 学校か、もしかしたらイチル以外にも性別変わってる人いるかもしれないな。それに他にも変わってる事もあるかもしれない。

「あのさ、もしかしたらわからない事とかあるかもしれないからできれば一緒にいてもらうと助かるけどダメかな」

「いいよ。大事な幼馴染みのピンチだもんな、遠慮なく頼れって」

 こちらの世界のタケルが頼もしい。あ、でもタケルってこういう性格なのかな。僕はイチルに頼ってばかりで他の人に意識向かなかったからよくわからないけど人気があるってことはきっとそういう事だよね。

「頼りにしてるよ」

 嬉しくなったから自然に笑えた気がする。

 あれ、タケルの表情止まった?

「おまっ、その顔反則っっ!じゃなくって任せろっ。そっそろそろ夕飯だから帰るっ明日迎えに行くっっ」

 タケルが帰った後、僕は机の引き出しやタンスを開けてみる。何か情報が欲しいと思っていたけどこの世界の僕は紙の本はあまり持っていないようだ。だけど電子書籍が割とあるようだ。僕が持っている本とだいたい同じだ。置き場所に困らなくていいしタブレット端末一つ持っていれば何十冊も本を持ち歩いているのと同じか、元に戻ったら一つ持つのもいいかもしれない。

 それにどういうわけかスマートフォンやタブレット端末の暗証番号がわかるのは助かる。もしかしたら僕よりはスマートフォンを使いこなしているのだろうか。うわ、snsとかゲームとかも入ってるなんて本当に僕か?いや、僕の方が若者としては異常って事だよな。よくイチルに連絡つかないとか何の為の携帯電話だって怒られてたもんな。


 翌朝タケルが迎えに来て2人で学校へと向かう。自分の世界では僕がイチルを迎えに行ってから学校に行っているのだというと驚いた顔をされる。そしてイチルは寝坊することが多いから自分が迎えに行かないとダメなんだというと何ともいえないとでも言いたそうな顔を向けられる。

「あー・・・なるほどね。昨日の話しから考えると2人の関係性がわかったような気がする」

「何それ」

「まああれだ、仲良いって事だな」

 何か言いたそうな感じはあるがこちらの世界と自分の世界との差を感じたのだと思う事にする。

 学校に着くまでの道の風景は僕の知っているものと同じだった。ただ、生徒や先生は性別が違う人もいるように思えた。タケルはこちらの世界でも友好関係は広いらしいけど僕はそのオマケ程度だろうか。だけどそれでいいかも。もしこっちの僕も交流の幅が広かったら何話していいかわからない。もしも話し掛けられてもわからない事だと困る。

 グラウンドの端の方でテニス部が朝練している姿が見える。それはこちらの世界も同じなのだとなぜか安心する。

「そういえば僕って何部なんだろう。僕と同じ書道部?」

「え?陸上部だよ。イチルちゃんに誘われて入っただろ。もしかして運動苦手だったりする?」

「はぁぁぁぁっっ!?無理無理っっそんな体力ないよ!」

「マジか」

 イチルは陸上部だということは変わらないが自分までも同じ運動部だと知り絶望を表情に浮かべる。

 この世界の僕は本当に僕なのだろうか。ありえない。

「つまり次元が違うと土台はともかく全然違うって事なんだな」

「たぶんね。でも今いる世界が基準みたいだから僕でも今なら運動神経は良い方だと思う」

「そうなのか?」

 現実の自分は現代人の必須アイテムのスマートフォンすらろくに扱えないのにこちらの世界では問題なく使えている事を伝える。

 タケルとは何度かスマートフォンでやり取りしているがスムーズに行えているのである。

 教室での僕の席は同じだ。ただ斜め後ろのイチルが座っていた席はタケルの物となっている。

 僕は幼馴染みのイチルが好きだけどこの世界の僕は?女の子のイチルが好きらしいけどもしも僕と同じように幼馴染みのことが気になるのならタケルのことが本当は好きだったりしないか?

 確かに明るいし誰とでも仲良くなれるし偏見ないし見た目も悪くない、ってこれじゃ好きになる要素しかないじゃないか。

 けど・・・僕だって同性が好きだといえば偏見の目で見られるってことはわかっているから僕かイチルが女の子だったらよかったらと思ったことはあるしやっぱりこちらのイチルに会ってみなきゃわからないよな。

「おーい大丈夫か?」

「えっっタ、タケルどうしたの?」

「それ俺のセリフ。授業わからなかったか?」

「そんなことないよ。とりあえず同じで安心しただけ。次の授業ってなんだっけ。ちょっと考え事をしてたんだ。やっぱり世界線(?)が違うと色々変わるものかなぁって」

「俺から見ればいつものミツキが変わったこと言っているようにしかみえないけどな。次は体育だ。天気いいから今日は予告通り走る事になりそうだな。あ、お前は初耳になるんだよな。」

 いきなり地獄じゃないか。本当の僕は走るのが苦手でビリになるかならないかというほどなのに!

「休みたいっっ」

「朝元気に登校している奴がいう言葉じゃないな諦めろ。それにこの世界のミツキは運動神経悪くないから大丈夫じゃないか?」

 そういえばそんな言葉を自分も言ったような。じゃあいいかな?

 体操服に着替えてグラウンドに出ると他の生徒たちもいるがイチルの姿は見当たらない。

 体育は隣のクラスと一緒になるからイチルに会えるのかと思ったら女子とは別行動だと知らされる。

「そうだイチルは男じゃないんだったね」

「あー、やっぱり実際に会わなきゃ受け入れられない?」

「そういうわけじゃない、つもりだけど実感が湧かないかな。当たり前のものがそうじゃなくなるって今までなかったから気持ちがついていけてないかもね。」

「そっか、それは仕方ないな」

 

 やはりグラウンドを走ったけどいつもより体が軽いように感じる。体力の基礎が出来ているとこんなにも違うのか。

「ねえタケル、僕って陸上部入る前は運動神経どうだったの?ダメだった?それとも少しは動けていた?」

「正直いえばあんまりなぁ。陸上やってからは良くなってきたよ」

「やっぱり。」

 戻ったら少しは運動したほうがいいかも。

 運動神経は普通で頭脳は僕とそんなに変わらないみたいだから成績は普通で好きな子とはそれなりに悪くない、頼りになる幼馴染みがいておまけにスマートフォンを使いこなせてる。

「この世界の僕は神か!」

「なあタケル、ミツキどうした?」

「あー・・・昨日ラッキーなことがあったんだ」

「もしかしてイチルちゃんと何かあったのか?春だな」

「幸せ者め」

 タケルと教室で仲良さそうに話していたクラスメイトがやってきて話している姿が目に入る。

 あれ、今僕がイチルのこと好きなのバレている?

「ま、まって僕の好きな人のこと知っているの?」

「そりゃあ態度でバレバレだろ。」

 この世界の僕は青春を満喫まんきつしているんだな。まぁ僕みたいに同性が好きと言う訳ではないから隠す必要もそんなにないだろうな。


 昼休みになると弁当を持って一人の女子生徒が僕を訪ねてきた。誰かに言われたわけではないけどすぐにイチルだとわかった。

 ポニーテールだけどはつらつそうな表情はよく知っている顔だ。僕と同じ青のブレザーだけどネクタイではなく赤いリボンになっていて当然といえば当然だけどスカートだ。

「ミツキっついでにタケルもお昼食べよっ」

「俺はついでか?ていうか俺いらないんじゃない?」

「そっ「何言ってるんだよっタケルも一緒にだよっ」

 イチルだけどイチルじゃない相手に何を話していいかわからない僕は離れようとしたタケルの腕を掴む。

 顔はイチルなのだから心配しなくてもいいのでは、という気持ちと顔が似てるだけで無理という気持ちが混ざった結果なのだから仕方ない。僕の机を中心にくっ付けて3人分の席を作る。

「ミツキ、昨日は映画に付き合ってくれてありがとう。すごく楽しかったよ」

「え?あ、あぁ別に」

 タケルが何か言いたそうな顔をしているけど仕方がないじゃないか。それはこの世界の僕が経験したことで僕じゃない。

「昨日見た映画の続編あるみたいだったよねっ続編出たら観に行こうよ」

「あー、うん」

 僕が観た映画と同じ物ならもう少し話しは出来そうだけど違っていたら困る、だから曖昧な返事になるのは仕方ないじゃないか。

 それに、イチルと何を話していいのかわからない。そんな僕を気遣ったのかタケルがイチルに話しを振るとイチルも返す。2人が盛り上がるので僕はそれに時々相槌を打ってやり過ごす。

 どうしよう。顔は同じイチルなのに言葉が出ない、話したいと思えない。世界が違うということはこういう事なんだろうか。

「ミツキどうしたの?大人しいけどなんかあった?」

「あー・・・今日はちょっと体調がおかしくて、なんとなくなんだけど」

 イチルに聞かれてついそんな言葉が出てくる。

「大丈夫?今日は部活休む?」

「そうするよ」


 放課後になると僕は部活を休み学校を出る。僕の世界と違う所はあるのかと少し期待してしまう。歩き慣れた道から外れて色々と見てまわる。

 残念ながら変わっていると思える所は見当たらない。やはり性別が違う人が時々いるくらいだ。僕はこれからどうなるのだろう。このまま元に戻らなかったらどうする?

 念願だったイチルといい感じなのは嫌じゃないけど嬉しいわけでもない。イチルっていうのははっきりわかるのに何か違う。

 家で夕食を済ませて宿題をやっているとお母さんがタケルが玄関に来ていると言っていたから僕は外に出る。

「どうしたの?」

「どうっていうか、お前に言っても仕方ないと思っているけど昼休みのイチルちゃんへの態度もう少しなんとかならないか?」

「どうって、僕はここの僕と違ってイチルの事どう見ていいかわからないんだ」

 まぁタケルの言い分もわかる。今まで好意的だったのに今日みたいなそっけない態度は何かいいたくなるだろうし。だけど・・・

「でももし明日もその次の日もずっとここにいるならあの態度はまずいだろ?」

「そうかもしれないけどでもなぁ・・・正直今はタケルといるのが1番落ち着くよ」

「そんなこと言うなっっそれじゃあ困るんだよっ」

 ん?タケルが困る事なんてあるの?まってそれって

「もしかしてイチルの事好きなの?そっか、それで。でもそうなら僕はここのイチルの事なんとも思えないからちょうどいいじゃないか。」

「違うっっなんでそうなるんだよっっあーーーっっ俺が好きなのはお前だよっっイチルちゃんとくっつきそうだから諦めたのになんなんだよっっ」

「えっ」

 叫んだあとタケルは気まずそうに顔をそらす。いやいや今のって、えぇっっ!

「悪い、今のは忘れてくれ。お前はここの世界に最初から居たわけじゃないから関係ないよな。じゃあ明日の朝も迎えに行くから、忘れろよ」

 タケルは早足で自分の家に入って行った。

 こ、告白されてしまった。

 僕は人生初の愛の告白に頭がいっぱいで何も考えられなくなり呆然としながら寝る準備に入った。


 目を開けると外から明かりが差し込んできた。

 そうか朝か。忘れろと言われたけどどんな顔でタケルに会えばいいんだろう。なんて考えながら体を起こす。

 え、なんだここ。僕の家じゃない。まるで病院みたいじゃないか。

「充希っっ良かったっっっ気分悪くない?お父さんっ充希が目を開けたよっっ」

 どうやら僕は丈瑠と映画を観に行った日に帰ってきてから2日間昏睡状態になっていたみたいで入院していたようだ。じゃああの世界は夢?だったら丈瑠と気まずくなる心配はないって事だよね。

 きっと2人で映画に行った事で僕が丈瑠に安心感を持ったからあんな夢をみたんだろうな。

  

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