八十四話 :異世界人
人は見つからない。歩いても、歩いても同じ景色が顔を覗かせる。
「簡単に見つける方法でもないかな……」
カインが独り言でぼそっと呟いた言葉に、ラリンは反応する。
「あっ、カインさん。 天耳通使ったらどうですか?」
「あっ、耳が痛くなるから封印してて忘れてた」
天耳通。それは世界の声を聞き分けられるスキル。入ってくる情報が多くて、耳が痛くなるから、という理由で封印してきたスキル。
封印しすぎたせいで、存在すらほぼ忘れていたスキルを今思い出す。
「よし、耳痛くなるの覚悟して使うか……!」
スキル発動――天耳通
スキル発動します。天耳通。
(助けてくれ!)
(世界に救済を! 我らに栄光を!)
(元気! 元気!)
(うおっほーい! 水だ!)
(行くぜ、3.2.1! 大ジャンプ!)
「ラリン急ごう、命が消えかけてる。 声からして、そう遠くないはずだ」
耳の痛さも気にならない、善の心は人の助けを優先させる。
一番最初に聞こえた声、つまりこの近くに助けを求める人がいる。さっきのようには、させない。
「カインさん! 行きますよ!」
「おう!」
二足歩行の魔物に襲われ、逃げ戸惑う人を見つける。傷を負っているようだが、血を垂らしながらも走れてる。致命になる攻撃はくらってないようだ。
ラリンが先行し、魔物の気を引く。弓矢を打ちながら、後退し逃げる人から遠ざける。
後ろからカインが心臓を突き刺し、絶命させる。
「……あ、ありがとう。 子供のように見えるけど、お前たちは一体?」
「俺はカイン・ローズベルトと言います」
「私は、ラリン・アルバルクです。 怪我はありませんか?」
「わざわざ、外国の方から来たのか。 こんな世界なのに。 あ、俺は近藤隼人、よろしく」
「外国……? 俺たちは異世界から来ました」
「異世界? お前たちもあの空から来たというのか?」
隼人が指さす空は、紫色の光が走り2つに割れていた。奇妙で、禍々しがった。
「いや、俺たちはあそこから来てない。 気づいたら、ここに居たんだ」
「へえ、不思議なこともあるんだな。 でも、お前たちはアイツらと違って意思もちゃんとあるし、俺を助けてくれたから悪い奴ではなさそうだ。 それじゃあ、俺は行くよ」
「あ、待ってください! 危ないので、私たちもおともしますよ」
「……まあ、いいよ。 着いてきて」
「カインさん、あの魔物見た事ないですよね」
「あぁ、全く知らない。 俺たちが知らない魔物が、うじゃうじゃといるかもしれないな」
「おーい、何してんだ! 置いて行くぞ」
カインとラリンは、近藤隼人と名乗った少年に、行き着く場所も知らないまま着いていく。隼人は、黒髪でどことなく、カインに似ていた。腰には、申し訳程度の短い刃が。
隼人を襲った魔物はカインたちが生きている時代には、存在していない。油断をしていたら、命を狩られてしまう、環境で人々は、もがき、抗い、命を懸命に紡いでる。
無慈悲に取られていく命の灯火は、地面に帰りまた命を芽吹かせる。
ではまた。
 




