七十八話 :救いし者
目覚めてしまった魔王の力。誰かを救うはずの力は、誰かの命を容易く奪うものへとなってしまった。相反する、力が1つになり爆発的な力を生む。
その力は、世界最強と謳われたドラコニックですら歯が立たないものだった。
「カイン、君はこんなことをするために力を得たのか!」
「……俺は。 おっと、邪魔な奴は引っ込んでいてもらおうか」
カインの姿が変わり放たれている殺気は収まる。だが、それも流れ星が消えるようにまたあの威圧が襲う。
「お前は誰なんや! カインに何をしたんや!」
「ん〜、そうだね。 僕はカインであり、カインではない、と言ったところかな」
「なら、私たちのカインさんを返してください!」
「嫌だね、この体は使い勝手がいい。 それにこの剣聖の力、忌々しいアイツの力だけど最高だね」
カインの姿を模した男は、3人を弄ぶように戦い続ける。致命を入れるわけでもなく、ただ体力を奪うように。
剣を満月を描くように振り下ろすと、地面に亀裂が入り足場が不安定になる。魔法なのか、剣技なのかも分からない早技は、当たると死ぬことを3人の肌に感じさせる。
「カインさんは貴方のものじゃ、ありません! カインさんは、私たちの仲間です。絶対に返してもらいます!」
「おぉ、怖。 嫌だね、友情はいつの時代も」
男は嘲笑うように体を横に揺らし、空を仰ぐ。
この男には友情の良さを説いたところで、心に響くこともなく、ただそれを馬鹿にするだけだろう。そういう奴なのだろうと、この瞬間に理解させられる。
助けてあげたい仲間が目の前にいるのに、その場で足踏みしか出来ず1歩も前に出れないのが、悔しく思う。手を伸ばせば、届くはずなのにその手は伸ばそうとすれば切られてしまうだろう。
ラリンは、自分の非力さを嘆く。なぜ、こんなに弱いのかと。守りたい愛しい人も私には、救えないのか。
「……ラリン、そんな顔すんなや。 カインはそんな顔望んじゃいないで」
ジンの温もりが籠った手の平は、ラリンの感情を正常に引き戻す。
誰かを守るときに、自分が自分を信じていられないなら助けることすら叶わないことを。
「そうですね。 カインさんなら、こんな時こそ笑って大丈夫というはずです」
「せや、アイツはそんな奴や。 だから、助けて頭を殴ってやろう」
「カインさん! 殴られたくないなら、今すぐ戻ってきてください!」
届くかも分からない、それでも暗闇に沈んでしまったカインに呼びかける。戻って来いと。
「届くはずがないじゃないか! アイツはもう死んだも同然だ、無意味なことだよ。 君たちも死のうか」
「そんなことを僕が許すともでも、思ってるのかい? ジン、ラリン! カインを取り戻せるのは、君たちだけだ! 任せたぞ!」
2人を殺そうとする凶刃をドラニックが防ぐ。
「いい加減に戻ってきて、カイン!」
スキル―静かなる優しきものが救いし者に変わります。
スキル-救いし者を獲得します。
スキル-救いし者が発動します。
眠っている剣聖の心に入り込みます。
感情をあらわにし、叫んだラリンはカインの心の内に入り込む。
ではまた。




