六十九話 :最悪の国王
スキルを1つ犠牲に、俺たちはフローラルとの戦いに勝つことが出来た。瀬戸際の勝利。もし、あの表示が無ければら俺たちは今もこうして地面に足をつけて、笑い会うことは出来なかっただろう。
しかし、過去に時間が戻るのかは分からないが、シャンネルは過去の姿。王様が統治していた時代へと、戻っていくことだろう。
「……あっ、肝心な王様ってどこにいるんだろう」
「王様? 確かにこの国を統治していたのは、フローラルだったから王様がいないと困るな。 城の外に出て探してみるか」
国を元に戻したとて、俺たちは国を仮にでも治めていたフローラルを倒してしまった。国を統治し、導く存在がいなければ崩壊していくのは当たり前の話だ。
それにしても、なんでフローラルは国を治めていたのだろうか。ただ暇だったから?あの性格だから、有り得そうな話だが、あまりにもあれな気がする。……もう真実は闇の中だし、考えなくてもいいか。
「……カイン! 無事だったか!」
「メングム……! そっちこそ、生きていてくれてよかった……」
城の外へ出ると、肩を借りながら歩いてくるメングムがいた。体は傷だらけで、血が下垂れていた。
「あぁ、そうだ。 コイツらは元国王軍の奴らだ。 フローラルたちが攻撃を仕掛けてきたと分かって、助けに来てくれんだ。コイツらが来てくれなかったら、俺は今頃あの世だったさ」
「何とはともあれ、皆無事でよかった。そうだ、メングムこの国の王様がどこに行ったか、知らないか?」
「申し訳ないが、分からない。 俺たちも王様の行方を探していたんだが、なんの手掛かりも掴めなかった。 もしかしたら、今頃……」
「お、おぉっ!? 体が勝手に引っ張られて……!」
メングムも王様の行方を知らないことに肩を落としていたら、いつか見たローブを被った老人が磁石に引っ張られるようにズルズルと歩いて来た。
「あれ? このローブ、私たちと一緒にご飯を食べたおじいちゃんに似てますよ、カインさん」
「言われてみればたしかに」
「……王様? 王様ですよね!? 」
「……メングムか。 私を王様なんて呼ばないでくれ。 国を見捨て逃げた、死に損ないの老人じゃよ」
王様と呼ぶローブの老人の肩を力強く掴み、目を潤わせながらメングムは再会を喜ぶ。
しかし、ローブの老人――王様は再会の喜びを押し殺し、自分を蔑むような言葉を吐く。
「そんなことないです、王様は素晴らしいお方です! 私たちは知ってます、王様の素晴らしいところを。 悪いところがあったとしても、素晴らしいところの方が多いです」
「そうだとしても、私は逃げた最悪の国王なんじゃ……」
冷たく固まった心は、メングムの暖かい言葉を弾き飛ばす。国を捨て逃げたことを、酷く悔やんでいる王様は誰の言葉にも耳を貸さぬように、殻に閉じこもってしまっている。
それでも、この国は導く者が必要だ。
「……なら、最悪のままでいいじゃないですか」
「え?」
「最悪のままでいいんですよ。 自分が悪い事をしたと分かっているなら、それとぶつかって解決するのが、贖罪だと私は思うんです。 したことを言い訳にして、逃げるのは良くないです。 分かっているなら、ちゃんと償わないとダメなんです」
「はは、嬢ちゃんの言う通りだ。 私は全ての問題から、目を背けて楽になろうとした。 ……なあ、メングム。 最悪の国王についてきてくれるか?」
「……はい! どこまでもお供します!」
王様の殻を打ち破ったのは、ラリンだった。自分の過去を吐き出すかのように、王様の心を溶かし、この国の王様にする。
こうして、シャンネルに最悪の国王が生まれた。
ではまた。




