六十一話 :アイリス
過去から今へ戻ってきた俺たちは、町へ向かった。
町の人たちに本当のことを伝えなければならない。その一心で俺たちは走った。
日が暮れる前に町へ着いた俺たちは、真正面から入ると時間がかかるため国を守る壁を飛び越えて国の中へ入る。
大通りへ抜ける小道を走り抜け、銅像が目立つ通りへ抜けた。
「フローラルは嘘つきなんだ! 皆さんは騙されています! 王様はボーフを切っちゃいない!」
俺は叫んだ。過去で見た捻じ曲げられた真実を伝えるために。だけど、誰も耳を傾けようとはしなかった。町の人は目の前にいる、俺を頭のおかしい人を見るような目で横切っていくだけだった。
奇しくもその光景はこの国を初めて訪れ、町中で王の悪事を叫んだフローラルの姿に似ていた。
「カインさん。 駄目です、証拠もない証言は誰も信じてくれません……今日のところは帰りましょう」
俺たちには証拠もない。今ここで叫んでも無駄だと気付き、国を後にする。
今思い返すと無理な事だった。証拠もなくフローラルの悪行を国の人に信じてもらうなんて。
早とちりだけで行動したことを反省し、集落へと帰る。集落へ帰ったら、俺たちの姿を見つけたメングムが近づいてくる。
「カイン、ラリン。 ちょっとこっちに来てくれ」
小声で着いて来てくれと言われたから、何かあるなと察する。メングムの後を着いていくと、人気のない茂みへ入って行く。
「お前たちも見たか? 英雄フローラルと呼ばれてるやつの正体を」
「あぁ、見たよ。 あれを伝えたくてメングムは俺たちに内緒で教えたの?」
「それもあるが、あともうひとつ言わないといけないことがある」
メングムは神妙な面持ちで言う。
「言わないといけないこと?」
「今お前たちがいる集落の人間は、フローラルの軍のもんだ」
「おいおい、それまじかよ? 俺たちが仲良くしていたあの人も、あの人も全部フローラルの手下っていうわけか? なら、なんでメングムは俺たちにそのことを教えるんだ?」
「……俺は前からフローラルが怪しいと思っててな、それで軍に潜り込んだら、ここに来たってわけさ。 調査を進めていくうちに色々なことが分かって、あの遺跡を見つけた」
「それでメングムも真実を知ったの?」
「あぁ。 真実を知った後、すぐに町の奴らにこの事を伝えようとしたが、俺にはフローラルの息がかかってる。 だから遺跡を調査しながら、秘密を共有出来る仲間を探していたんだ 」
「そこに俺たちが来たと。 メングム、あの遺跡いつか見つかったしないか?」
メングムはフローラルとブローディアにバレないよう、色々と調査をしていたらあの遺跡を見つけ、真実を知る者を増やそうとしていた。そこに国のことも全然分からない、旅人の俺たちが来たと。
しかし、あの遺跡いつか見つかってしまいそうな気がする。
「見つかった時はその時さ。 隠そうとする方が無理さ」
「確かに」
メングムの言う通りだった。あんなでかい遺跡を、隠そうとする方が無理に近い。
「えっと。 なら、ここに同盟を組みますか?」
「同盟? いいねえ、組もう。 カイン、名前を決めてくれ」
「え? 俺が? そうだなあ、アイリスとかはどうだ?」
「アイリス? どんな意味があるんだ?」
「昔、お世話になった人が教えてくれた花でね。 確か、花言葉は友情だよ」
「友情か、いいねえ。 気に入った! 俺たちは今日からフローラルを倒すアイリス同盟だ!」
「おぉ!」
「あっ、そうだ。 カイン、お前の仲間もう1人いたろ? そいつにも、あの遺跡に行って真実を教えて同盟に入れてくれ。 仲間と戦力は多い方がいい」
「ジンのことか。 分かった話しておくよ」
「あっ。 メングムさん、ジンさん今ブローディアと行動してますけど、大丈夫ですかね?」
「大丈夫だと思うぞ。 アイツらはここ2年手を出していない。 だから、安心しても大丈夫だ」
「なら、良かったです」
ラリンが同盟の提案をし、俺たちは友情の意味を持つ花から名前を貰いアイリス同盟を立ち上げた。
それにしても、ジンの横には敵がいるなあ。
ではまた。




