五十五話 :決意
ブローディアさんは、どんどんと森の奥へと歩いて行く。月明かりすらも届かくなるほど、鬱蒼とした森を歩き続けること数十分。だんだんと森が拓け始めてきた。
まるでそこは国から姿を隠すように、開拓された森の先に松明の明かりに照らされた石造りの家の集落が形成されていた。
「ここが私たちの拠点だ」
石造りの家はまばらに建っており、治療する場所なども見られた。人はそこそこいるらしい。
「なんでこんな森の奥に?」
「その話は私の家でしよう」
ブローディアさんの家は集落のどん真ん中にあった。周りの家より少しだけでかく造られ、松明が2個置かれていた。
「狭い家だが、我慢してくれ」
ブローディアさんの家はベットと机に椅子が家の大半を占めていた。
「それでなんでこんなところに拠点があるかっていう話だったね」
「はい」
「私たちは反乱軍だからだよ」
ブローディアさんの口から出てきたのは、国を転覆し我が者にしようとする犯罪者の名称だった。
「え?」
俺とラリンは素っ頓狂な声を出したが、ジンは黙ってブローディアさんを見つめていた。
「なるほどな。 あんた達は前の王がボーフを切ったと信じてないってことか」
「あぁ、私たちは王がそんなことをする人ではないと分かっている。 最初は国民に必死に訴えかけたさ、王はやってないと。 だが、証拠が何処にも無かった。 私たちの訴えなど誰も信じなかった!」
「それでシャンネルを手中に治めた英雄フローラルに、戦いを挑もうと?」
ジンは何かも分かっているように喋りだしたが、ブローディアさんは戦うということは否定した。
「……いいや、戦いはせん。 フローラルも私たち反乱軍の存在を知っている。 けれど、私たちは生かされている。 それはいつでも私たちを潰せるという意思表示なんだ」
「そうか。 でも、あんたの目今にでも戦いに挑みそうにしてるで?」
ブローディアさんの目の奥には、復讐と憎悪の炎が煮えたぎり口を固く結んでいた。
悔しいだろう。信じている王を国民は信じず必死の訴えにも耳を貸してくれない。ブローディアさんたちは悔しい思いを必死に押し殺し、ここで暮らしているんだ。
「本当は戦いたいさ! しかし、勝てないことなんて分かっている! この20年間、王のやってない証拠を探してきたが、未だ見つからないのだ! 私たちももう諦めてしまったのだ。 証拠もないのにフローラルを倒すなど無理なのだ」
証拠がないため、フローラルを倒す理由すら出来ない。もしこれが故意的に仕組まれとしたのなら、フローラルは頭のキレる奴だ。
「カイン、ラリン。 悪いが俺は叡智化した魔物の調査から外れるわ」
「ん、分かった」
魔物の調査を離れる理由はすぐに分かった。調査は2人でも事足りるしな。
「お主、何をするつもりじゃ?」
「何って証拠集めだよ。 証拠を集めたら、いいんだろ?」
「でも、20年間見つからなかったのだぞ。 そんなのどうやって見つける気なんだ」
「根性や。 憲兵団の教えでな、証拠は見つかるまで耐えるべしっていうのがあるんや」
「ハッハッハ! よし、分かった。 私たちも今一度探してみよう。 もう夜も更けた、今日はここに泊まっていくといい」
ブローディアさんはジンに触発されたのか、もう一度諦めてしまった自分を奮い立たせた。その顔には自信と活気が満ち溢れていた。
ちょうど2つ家が空いてるとの事だったので、そこに泊まらせてもらった。
ではまた。




