五十三話 :英雄フローラル
原始化した魔物を討伐した俺たちの腹は、空腹の鐘を鳴らしていた。体に残っている満腹ゲージはもうすっからだ。
「あかん、腹へりすぎて死にそうや。 俺はここで養分になる。 置いて行くんや!」
「何を言うんだジン! 一緒に帰るって約束したじゃないか! この洞窟を抜けて、お前は王様になるんだろ!?」
「あっ、見えましたよ!」
ジンと茶番劇をしていたら、シャンネルへ着く。これでジンが養分になることは避けられた。
シャンネルの門は赤茶色の美しい煉瓦造りで、甲冑を着て槍を持った、門兵が5人立っていた。かなり厳重な警備をしているんだな。
「止まれ! 何奴!」
「えっと、冒険者です」
「証明できるものは?」
門へ行くと槍をクロスされ通行を阻まれる。今回は王様からの紹介状などもない。腰を低くし、ポケットからギルドカードを取りだし提示する。
「ふむ、確かに冒険者だな。 入ってよいぞ」
ジンたちもギルドカードを提示し、シャンネルへ入ることを許される。
門を1歩超えると、剣を天に掲げた女性の石像が顔を表す。町並みは今まで行った国と、さほど変わりはなかった。
「でっかい石像やなあ」
「英雄フローラルって書いてありますね」
「英雄フローラル? 誰だろう?」
石像に彫られている名前を読むと、英雄フローラルと書かれていた。
しかし、誰なのか全然分からない。英雄というからには、名が知れているはずなのだが全然知らない。石像が立つぐらいだから、英雄は英雄なのだろう。
「英雄フローラルを知らないなんて、旅人かい?」
「え、あ、はい。 ついさっき来たばっかりです」
「そうかい、そうかい。 なら、英雄フローラルとは何か教えてあげるよ」
1人の老婆が俺たちに話しかけてくる。老婆は、英雄フローラルとはな、なにか語り始めた。
老婆いわく、約2年前、この国のシンボルだった大樹ボーフが何者かに切り倒された。この大樹は何百年も前から国と国を取り巻く森の繁栄を見守ってきたとされており、大樹を切り倒すのは何人とも許されてなかった。ある日フローラルがどこからともなく現れ、あの大樹を切ったのはこの国の王だ!と国民に訴えかけた。国民は最初は信じなかった。あの王様がそんなことをするはずがないと、突然現れたフローラルの言葉に耳など傾けなかった。
だが、王が国の視察をしていた時だった。王の懐から木を切り倒すために作られたシエラが、地面に落ち国民は震え上がった。信用していた王の懐からシエラが落ち、フローラルの言葉は虚言から真実へと姿を変えた。王は必死に弁明したが、国民は聞く耳を持たなかった。
けれど、裏切りの王を国民は殺しはしなかった。フローラルが殺してはならぬと言ったからだ。王は国を追放され、フローラルは英雄となった。そして、讃えるようにこの石像は建てられた。
「これが英雄フローラルじゃ」
「ふーん、だから2年前に親父に王が変わったと通告が来たんか」
「ジンはこの事知ってたの?」
「いいや、変わったことしか知らへんかったわ。 前の王は20年ぐらいこの国を治めてたからな」
20年も国を治めてた人が、急に国のシンボルである大樹を切ったりするのか?いや、でも人間急に変わったりするからな。この真実は、迷宮入りだろう。
「英雄フローラルのこの剣の意味は?」
「これかい? ただこうした方がカッコイイから、こうしてるだけじゃよ」
「なんやそれ!」
天に掲げる剣には、特段意味は無いらしい。1番意味ありげだったのに。
「まあ、いいや。 ありがとうお婆さん教えてくれて」
「なぁに、いいってことさ。 それじゃ、気をつけてね」
「うん、気を付けるよ」
老婆と別れた俺たちは、宿を探す前に飯屋へと足を進めた。
シエラはノコギリに近いものと考えてください。ではまた。




