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四十八話 :ゼラニウム

 戦闘訓練が終わり、少しだけ強くなった気がする次の日の朝。俺たちは何故か王城へ呼び出されていた。

 これといった心当たりがない俺たちは、ちょっとだけ脅えつつも会議室の扉を叩く。


「よく来てくれた、カイン」


 神妙な面持ちで俺たちを歓迎する。一体何事だ。もしかして、魔物の大群が攻めてきてるとか……?


「もしかして、一大事?」


「あぁ、一大事だ。 この国を揺るがす第事件が起きている……」


 ……やっぱりそうだ。魔物の大群が押し寄せてきてるんだ。だから、俺たちにも助けを求めてここに呼んだ。全てが点で繋がった。


「分かったよ。 魔物の数は?」


「……? 魔物なんていないぞ?」


「……え?」


「いや、ただ旗の絵柄を統一しようと思ったのだが、なかなか決まらなくてな。 そこでカインたちに意見を求めようかと思って」


「あれ? えっと、なんか凄い勘違いをしてたみたい」


 点と点は繋がるどころか、元々なかったみたいだ。国の一大事とか言うから、凄い身構えたのに全身の力が抜けたようだ。

 まあ、バラバラな旗が一つになろうとしてるんだ。国を揺るがす事件ではあるけど。


「それでどんな旗がいいと思う? カイン」


 旗か。これから先一生残っていき人の目に焼き付くものだ、どんなのがいいだろうか。ラリンならどんなのがいいと言うだろうか。


「ラリン、どんなのがいいと思う?」


「私ですか? そうですね。 手を取りあった人の旗とかどうでしょうか? 一つになったことを表すには、1番いいかと」


「……手を取り合った人の旗か。 よし、それで行こう。 他の者も異論はないな?」


 無しという事になり、ラリンの旗の絵柄が採用された。未来永劫ここに寄れば、その旗が見れるのか。これで一件落着か。と思われたが、外の方から何かが爆発する音が鳴り響き、王城が音と共に揺れる。


「何事や! 」


「分からん! ディアンガとドロッセルは外の様子を見てきてくれ!その他の者たちは、私と共に王城の者を逃がす手伝いをしてくれ! 」


「了解。 行くよ、ドロッセル」


「めんどくさいけど、行くか!」


 会議室の扉を開けると、窓から黒煙が上っているのが見える。見た事のある光景。あの時と似ている光景。不可解な鉄の塊が襲った、リークムスイアと似ており嫌な予感が体中にほとばしる。


「ガーランド。 俺も町へ行く。 2人じゃ、駄目だ」


「おい! カイン!」


 ガーランドの声が後ろから響くが聞こえないほどのスピードで俺は、走る。もしあの時と同じなのならば、2人は確実に死ぬ。奴らは、並大抵の攻撃じゃビクともない。

 急いで町へ向かったが、そこは惨状と化していた。血みどろになり地面に倒れ伏す町の人々。町の大通りは、人の血でぬかるみ歩く度に気持ち悪い感触が伝わってくる。

 家は燃え、人の悲鳴が鳴り響き、阿鼻叫喚となり俺の耳を劈く。


「……あぁ、駄目だ。 なあ、なんで息してねえんだよ」


 忌々しいあの鉄の塊が動く音が大通りの奥を行った所から聞こえ、そちらへ走って向かうが、広がっていた光景は目を塞ぎ現実から目を背けたくなるものだった。

 町の人を守るように覆い被さる、ドロッセルとアンディアルたちは地面に倒れ、血の水溜まりを作っていた。体には傷跡がいくつもあり、最後まで抵抗して守ろうとしていたのだろう。

 しかし、虚しく2人は死んでしまった。町の人も死んでしまっている。さっきまでは、笑って一緒に旗の絵柄を選んでいたのに。息をして、笑いあっていたのに。やっと旗が決まったのに。なんで見ないで死んじまうんだよ。俺がもっと早く着けてれば。俺のせいだ、俺が、俺が。


 許さない、許サナイ、ユルサナイ。死んじまえ、死ンジマエ、シンジマエ。壊れて、壊レテ、コワレテ。


 スキル――復讐の闇鬼が発動します。酷い憎悪のせいで我を失い、誰彼構わずに襲います。


「マリョクヘンカヲカンチ。 戦闘モードベータに移行します」


 ※※※※※※※※※※※※※


 カインさんが飛び出して行ってしまったが、まずは王城にいる人たちを助けないと。


「こっちへ逃げてくださいー! 」


 ガーランドさんが教えてくれた安全な場所へ、王城にいる人たちを誘導する。全員誘導した終わったことを確認し、カインさんの後をジンさんたちと追いかける。

 王城から出ると、町は惨状になっており血の足跡が大通りの奥の方へ歩いて行っていた。


「これは誰かの足跡やな。 これを辿ればカインに追いつけるかもしれへんで」


 ジンさんの助言に従い足跡を辿ることにすると、辿り着いた先には我を失い憎悪に満ちた顔で、戦っているカインさんの姿があり、その傍らにはアンディアルさんとドロッセルさんの死体が転がっていた。


「……アンディアル。 ドロッセル。 すまない、私が行けと言ったから。私が言わなければ……すまない。 ゆっくり寝てくれ」


 ガーランドさんは死体になったアンディアルさんたちを抱きしめそっと地面に置き、涙を地面に落としていた。


「カインさん! 落ち着いて下さい!」


 私は暴走するカインさんに声をかけるが、耳を傾けてくれない。今のカインさんは、いつものの優しいカインさんでは無いことがわかった。

 それでも、私は諦めずに声をかけ続けると、カインさんはこっちを向いてくれる。我を戻してくれたと思ったが、次の瞬間カインさんは剣を構えこちらへ飛びかかってくる。危険察知は発動したが、そのスピードは目では追えなかった。


「危ない! おい、カイン! お前、どうしたんや!」


 ……動けなかった。ジンさんが止めてくれなかったら私は殺されていた。

 カインさんは、止められた剣を強引に振りほどき標的を私からジンさんに変える。


「ラッセル! 私と共に魔法を撃つぞ! カインの動きを止めるのだ!」


「了解!」


 ナーバントさんとラッセルさんが、ジンさんと剣を交えてる向かって撃つがカインさんはそれを難なくと避け、ジンさんに剣をそのまま振り下ろす。


「どけ! 2人とも! 私の土魔法で拘束する!」


 ガーランドさんが、地面を伝い拘束する土魔法を撃つがそれすらを破られる。今のカインさんの前では何もかもが無意味なのだ。


「……クソ。 強いな。 あかんわ死ぬかもしれん」


 ジンさんたちと総力を上げ、カインさんを制止しようとするが、策の全ては尽く破られ私は傷付き為す術がなかった。

 けれど、カインさんも人間だ。体力は無地蔵では無いため、この数を相手にしているせいかだんだんと息を切らし始めている。しかし、勝算はない。


 ……戦ったらダメだ。今のカインさんは心に大きな傷を負っているはずだ。なんで気付けなかったのだろう。さっきまで笑いあっていた人を殺されて、カインさんは自分のせいだと責めてしまったのだろう。優しいカインさんは、いつも自分のせいにして他人を守ろうとする。悪い癖だ。


「……カインさん。 辛かったよね」


 私は持っていた武器を地面に落とし、カインさんに近付く。


「ラリン! 危ないで!」


 カインさんは、近付いてくる私を斬ろうとするが間一髪のところで剣が止まり、私は抱きつく。

 赤子を抱くように、愛でるように私はそっと優しく包み込む。カインさんの温もりを感じる。でも、暖かいのに何処か寂しげな冷たさがある。


「……いつも貴方は1人で何かを成し遂げようとする。 それで自分のせいにする。 悪い癖ですよ。 それでカインさんが死んでしまったら悲しいですよ。 私。 もっと頼ってください」


 スキル――ゼラニウムを獲得しました。暴走するカインの心を鎮めます。


「……あ、あぁラリン。 俺また守れなかった」


「俺じゃないです。 私たちが守れなかったのです。 カインさんだけのせいじゃありません」


 カインさんの暗い憎悪に満ちていた、目に光が宿る。自我を取り戻したカインさんは泣きながら、自分を責める。私は、告げる。カインさんのせいじゃないと。


「……そ、うかな……」


 カインさんは、突然糸が切れたように意識を失ってしまった。息はしてる。生きてる。良かった。


「ラリン、生きてるのか? そいつ」


「大丈夫ですよ、ちゃんと生きてます」



 ※※※※※※※※※※


 分からない。暗い。苦しい。俺のせいだ。何も見えない真っ黒な海に沈められたような感覚が、絶え間なく襲ってくる。

 鉄の塊がアンディアルたちを殺し、俺は自我を失った。暴走する俺は鉄の塊を一匹残らず倒すが、拳は砕け片腕はまともに動かなくなる。


「……インさん!」


 誰かの声が、沈んでいく俺の心に呼びかける。暗い光が届かない水面の底。俺はただ重力に従い落ちていく。

 そんな時だった。俺を優しい光が優しく包み込み、水のそこから引っ張りあげてくる。光に包まれた俺は正気を取り戻す。

 目を覚ますと、微笑みながら俺を抱くラリンがいた。とても優しい顔で、俺の事を諭してくれる。冷たく固まった心は徐々に溶けていき、意識がぷつりと途絶える。

※で視点変更されてます。ではまた。

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