四十四話 :サーバント連邦国
疲れきってしまった俺は馬車で眠り、そのまま眠り続けてしまっていたらしい。ここまでジンが運んでくれたと、ラリンから聞く。
食堂へ集まり、朝ご飯を食べていると右後ろの席から喧騒の声が聞こえてくる。やれ、死ねだとか殺してやるだとか、汚くてアホらしい言葉が飛び交っていた。
俺たちは、その場をただ静観しているわけにもいかなく2人の喧嘩を止める。
「はーい、ストップ。 こんなところで喧嘩はやめようね」
椅子座らせなぜ喧嘩をしていたかと聞くと、この男が喧嘩を吹っ掛けてきた、もう1人の男も同じ主張をしてくる。
これじゃあ、埒が明かないと思い憲兵を呼び後は任せることにした。
「それで俺たちは、これからどうしようか。 ドラゴニックの報告を待ってここで少しばかりの休息をとるか、それとも今すぐに国を出て次の目的地に行くか。 どちらかだね」
激しい戦闘の後だ、ここでゆっくりするのも良しかなと思っていたが、
2人の表情は真剣で熱い眼差しが、こちらへ向けられていた。そういう気分ではなさそうだな。
「よし、それじゃあ次に行く場所決めようか」
話し合いの末行く場所が決まった。それは、ここリークムスイアから南東へ5時間ほど馬車を走らせた先にある、サーバント連邦国というデカイ国だ。
この世界で2番にデカいと言われている国で、ナロス共和国と連携を組んでいる、ギルドが唯一ここに存在している。もう1箇所ギルドはあるが、そこは連携しておらず完全に独立しており、俺たちがそこの恩恵を得られることはない。
なぜ小さい国のナロス共和国にギルドが置かれているか、
それはトワライトカオスの存在が大きい。あのパーティーは1国を滅ぼせるとされており、その力を認められギルドの設立が認められたとか。ギルドの設立に何が必要なのか。それは、公にはされてないから、これはただの噂でしかない。
「サーバント連邦国かあ……あそこ話通じないから嫌いやねん」
ジンが愚痴を零す。
「話が通じない?」
「いやな、俺もこう見えても王子やから外交とかで他の国に行くんや。 その時にな、あそこのお偉いさん方はあーでもこーでもないってな、言い争うんや。 元々別々の国が1つになって出来たから、みんな考え方が違くてな、こっちの話も全然聞かへん。 だから、嫌いやねん」
それはとても面倒くさそうだ。 違う国が1つになったということは、法律も文化も考え方も価値観も何もかも違う人間が、1つになっているんだ。人間は簡単に相容れない存在なのに、それが国規模となるとより面倒くさそうだ。
それでも、行くしかないんだけど。
「まあ、ここでいくら言っても行くしかないのは確かだよ」
「はぁ……めんどくさい」
「ジンさん……リラックス効果のあるお茶飲みますか?」
「貰うわ」
ジンは本当に嫌そうにしており、それを見たラリンはリラックス効果のあるとするお茶をだす。
出発は明日の早朝ということになる。
次の日の朝。空は晴天の真っ青で国を出発するには、気分がいい日だった。馬車に荷物を詰め込み、リークムスイアを後にしようとすると、海の家のおばさんが走って来るのが見える。
「間に合ったようだね。良かったよ。 これ馬車の中で食べな」
そう言うとおばさんは風呂敷に包まれたパンを渡してくれる。パンはまだ暖かくて焼き立てなのがわかる。
「ありがとうございます。 それじゃあ、行ってきます!」
「気をつけて行くんだよ!」
馬車に乗り込み、サーバント連邦国へと向かう。
着くまでは5時間かかるため、昼頃には到着予定だ。
ちなみに今回は紹介状などは持ってない。ジンが言うには、あの国に招待状は無意味らしい。1人が認めても、全員が認めなければ無かったことにされるらしく、招待状もそれによって意味をなさないかもしれないということらしい。
どうにか認めてもらわないとな。勝手に調査するのはダメだし、もし認めてもらえなかったら当分は許可取りの毎日だな。そんな日々は嫌だから、頭を地面に擦り付けてでも認めもらおう。
おばさんから貰ったパンを馬車の中で食べ、少し暑くなり窓を開けると、涼しい風が火照った肌を冷ましていく。額に浮いていた汗は乾く。
揺られること5時間、俺たちはサーバント連邦国へ着く。特に門の前に兵士などはいなく、すんなりと入ることができた。
町へ入ると、左も右も家と人で溢れ返っており世界で2番目の国のデカさを目にする。
リクームスイアと少し違った賑わいがあり、どことなく嫌な雰囲気だった。
さて、お偉いさん方が居る場所はどこかな。
「ジン、どこに行ったらお偉いさん方と話せる?」
「あそこや。 あの趣味の悪い色々な旗を掲げるあの建物や。 あそこに行けば、会えるで。 話が通じない奴らにな」
ジンが指さす方向には、5種類の旗が掲げられておりどれも絵柄が違く、内部対立を表しているのだろうか。建物は、黒や赤や青などと色も統一しておらず、旗も統一しないほど、仲が悪いのだろうか。よーく見ると、国の人たちも着ている服が違うし、睨み合って生きている気がする。
これを見てしまったら行くのはあまり気乗りはしないが、行くしかないか。
ちなみにラリンは、国の大きさに目を輝かせていた。……可愛い。よし、なんか頑張れる気がしてきた。
俺はラリンの姿を見て、少しだけやる気が沸きあがる。
心を決め、全てがバラバラな建物に足を運ぶ。建物の前に立つと、遠目で見るよりでかく雲を突き抜けそうなほどだった。左右非対称で柱もてんでバラバラ。これを作る時も、それぞれが主張しあって結果こうなったんだろうな。
……よく統一しようと思ったな。俺はこの歪に出来上がった建物を見ながら、そう思う。
流石にお偉いさん方がいる建物には、兵士が立っており何者!と止められてしまった。
ジンが王族の証とやらを見せると、すんなりと通してくれる。
「なあ、ジンそれよく見せてよ」
「これか? ええで」
「あ、私も見たいです!」
ジンから王族の証を貰いラリンとまじまじ見ると、ボタンのような形をしており龍の紋章が彫られていた。色は金で作られており、王族味を感じる。
建物の中は、色々な物が置かれておりお偉いさん方の趣味が違うせいか場所によっては、廊下のカーペットの色が一区切り終わると他の色に変わっていた。
ジンに着いて行くと、一際大きい扉の前に立つ。
「ここにおるはずやで。 仲悪いくせに仕事する場所は同じなんや。 よー分からん連中やで、ほんま」
とジンが愚痴を零していたら、扉の中から怒鳴り声が廊下に響き渡る。次第に声に混じりながら、何が割れる音も聞こえてくる。
こんな状態じゃ、扉をノックしても気付かなさそうなのでノックもせずに扉を開けると、机から身を乗り出して言い合いをしているお偉いさん方がいた。
「あのぉ〜」
「あぁ!? 誰や!」
お偉いさん方と言うから、おじさんなのかと思ったがみんな若く25歳と言った感じだった。
あぁ、こりゃ意見が対立しまくる訳だ。俺はその様子を見て、謎に納得をする。
「魔物の調査をしに来ました、カイン・ローズベルトと申します。 調査の許可を貰いたくて」
「んなもん、やる! 勝手に調査しろ! 俺はこいつと今話し合ってるんだ!」
語調を荒らげ、適当に調査の許可をする。それにしても、なんて物言いなんだ。もうちょい優しくなれないんだろうか。
ジンが話が通じないと言っていたのは、こういうことなのだろう。ラリンもオロオロとしており、どうしたらいいか分からない状態になっていた。
「んだと! 殺すぞ!」
「あぁ!? お前こそ死ねや!」
朝見た光景が、今目の前でまた繰り返される。この光景、今日見るの2回目だよ。……いいや。放っておこう。
「行こう、ジン。 ラリン」
「はい」
俺たちは、扉をそっと閉めた。
ではまた。




