四十三話 :エクリーン領地のその後
ラウラとあの二人は強かった。運が良くて勝てたのかもしれない。そう考えると、今の自分がどれだけ力不足で頼りないかが分かる。剣聖という名ばかりに、なってしまっている。
体はズタボロで、立つのもやっとなぐらいで馬車の揺れさえも痛く感じる。そんな体にならければ、勝てない相手だった。
ラウラたちは倒したが、まだ問題は残っていた。エクリーン領地に住まう領民たちを、領主亡き今、残しておく訳には行かない。ガルドスさんの行方は分からないが、ラウラの言動から考えるにどうなっているかは、想像に容易かった。
「カインさん、どうしたんですか? 難しい顔されて」
「あ、いや。 ラウラたちは倒したけどあそこに残された皆さんをどうしようかなって」
「あ〜、それなら俺に任せときや。 親父に頼み込んでどうにかしてやるわ」
ジンが自信満々に言ってくれ、この問題は簡単に終わった。リクームスイアヘ、馬車の痛みに耐えながら着く。
日はすっかり落ち込み、町には光が灯っていた。俺たちは、王城は広すぎるため、落ち着かないという理由で海の家に宿泊することにした。
ジンは、別に落ち着くけどなと言っていたが庶民の俺たちには1番気が休まれない場所だ。
久しぶりに見るおばちゃんの顔は、相も変わらずの元気そうな顔で、俺たちを見るや否や歓迎してくれた。
夜遅くなってしまっているのに、お腹空いただろうと言い食堂にご飯を並べてくれた。
その暖かさに甘え、ご飯を食べる。乾いた胃の中に魚の旨みが広がる。手が止まらなくなり、目の前に置かれていた魚たちは次々に消えていった。
その日の夜は、お風呂に入るとみんな疲れ切ってしまって泥のように眠った。
次の日目が覚めると、早速王城へと向かった。中へ入り、ジンが多分親父はここにいると言い、執務室へ足を運ぶ。
執務室の扉をノックすると、王様の声が聞こえた。
「入りたまえ」
「失礼しまーす」
本当に失礼な失礼しますを言いながら、ジンは中へ入って行く。俺達もその後に続き、中へ行く。
「おや、ジンたちじゃないか。 随分早い帰りだね」
「今日は親父に頼みがあってきたんや」
「お願い? どれ、聞いてみようかの」
王様は執務の手を止め、俺たちの方を見つめてくる。
「エクリーン領地の領民を、リークムスイアに住まわせてくれ」
「エクリーン領地の領民を? どうしてだい? あそこは、ガルドスが領主をしているはずだよ。 うちの国に来させる理由なんてどこにもないはずじゃよ」
王様は、エクリーン領民を何故ここに住まわせるのかと聞いてくる。当然のことだろう。王様は、何があったのを知らない?そのため何があったかを全て話す。
「ふむ、そんなことが。 よし、分かった受け入れよう。 ちょうど南方の方に新しい住宅地を作ったところじゃったからの。 手に職がつくまでは、こちらで援助金を出すことにする」
エクリーン領民の受け入れを許可してくれ、援助金までも出してくれると言う。これなら、あの人たちも安心して生きられるだろう。
「よし! そうと決まったら、早速エクリーン領地に行って説明しに行くか!」
俺たちは、王城を後にしここまで乗ってきた馬車に乗り、領民を乗せる馬車と共にエクリーン領地へと向かう。
領地へ着くと、早速領民を1箇所に集め説明を行う。
「てことで、リークムスイアに住んでもらうことになった。 安心してくれ、あっちでの生活は保証する」
「……ガルドス様は? 私たち何年かの記憶がすっぽり落ちてるような感じがするの」
何年かの記憶がすっぽり落ちてる感じがする。きっと、ラウラに操られていたのだろう。俺たちが聞き込みした時に、違和感を感じたのはこれが原因なのだろう。説明をしても、長いこと洗脳されていたため、現実との乖離が起きてしまっている。
しかし、ジンと戦っている時のラウラは魔法を使っていなかった。魔法は使えないはずじゃ?魔法が使えなければまともな洗脳も出来はしない。これに関しては、ドラゴニックたちの報告待ちだな。
「さっきも言ったけど、ラウラっていう奴がここを乗っ取ってアンタらを洗脳していた。 そして、ガルドスはもうこの世にはいない。 これが現実や」
ジンは冷たく現実を突きつけるが、これしか方法がないのも確かだった。夢から目を覚ませるなら、夢じゃないことを無理矢理分からすしかない。
「……ガルドス様……」
1人の領民が地面に膝をつけ、泣き始める。
自分が信頼し愛していた領主が、夢から覚めたら亡くなってしまっているのだ。辛いだろう。俺は、ただその場を見ていることしか出来なかった。気休めの言葉をかけることは簡単だった。でも、それでこの人を救えない。それでも、何もしないよりかは。
「ガルドスさんは、きっと空の上から笑って見てくれていますよ」
泣いていた領民は、泣き止まなかったがそれでもいいんだ。自分のペースで傷を癒していくだろう。
エクリーン領民は、ジンが連れてきた馬車に乗せられリクームスイアヘ運ばれて行った。
「問題解決ですね」
「あぁ、終わった。 疲れたよ、ゆっくりと休みたい気分だ」
「せやな、ワイらも帰ってゆっくりとするか」
馬車に乗ると眠気が襲い、目が覚めるとベットの上だった。
ではまた。




