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三十五話 :違和感

 部屋に入ると、ベットが二つその横に照明器具が置かれ壁に沿って机がふたつ置かれており、そこそこデカい部屋だった。


 こんなデカい家に、ドルゴスは使用人を誰一人雇わずに住んでいるのか。

 ドルゴスぐらい歳がいっている、金持ちは大体使用人を雇い全てのことをしてもらっている、そんなイメージがあったが、偏見だったようだ。


「まだ外も明るいし、なんか最近事件か何かあったか聞き込みに行くか?」


「ん〜、そうだね。 そうしよう」


「ラリン、いるか?」


 扉の前に立ち、ラリンを呼ぶ。


「カインさん、どうしましたか?」


 ラリンは扉を開け、頭をひょっこと出す。


「まだ外も明るいし、最近事件が無かったか聞き込みに行こうかと」


「分かりました、少し待っててください。 準備しますから」


 そう言うと、ラリンは部屋へ戻ってしまった。

 準備とは何をするのだろうか、ラリンの格好は来た時と同じだったし、やる事なんてあるのか?


「ジン、今のラリンいつも通りだったよな?」


「ん? 見た感じそうやったけど、どうしたんや?」


「いや、準備ってなんの事かなって」


「……女心分かってないな、カインは。 そんなんじゃ、モテへんで。 俺は教えないから、頑張って考えてみな」


「え……?」


 ジンは息を漏らし、呆れて言う。

 一体何がおかしかったのだろうか。ジンは教えてくれないと言うし、自分で考えるしかないか……。


「お待たせしました……カインさん、私になんか付いてますか?」


「あ、いやなんも付いてないよ、いつも通り最高」


「……お前は天然なのか、それとも馬鹿なのか、分からへんわ」


 準備が終わり、部屋から出てきたラリンを見るが特に変わった点もない気がする。

 ん〜、一体なんの準備だったんだ?


 と、考えていると知らず知らずの内にラリンを見つめすぎていたらしく、ラリンが何か付いてるのかと聞いてくる。


 自分が、かなり凝視していたことに気付き慌てて視線を逸らし何も付いてないと言う。


「そ、そうですか。 さっ、早く聞き込みに行きましょう」


 ラリンは少し顔を赤らめ、何かを誤魔化すようにしていた。


 家の外へ出ると、最初に出会った二人組の茶髪の男達がこちらを見ていた。


「お前達、ドルゴス様に粗相はしなかったか?」


「もう、すぐそうやって威圧する。 コイツの言葉は無視していいから、早く行きな」


 厳格の方の男が、威圧的な言葉と眼光で俺達を見ながら言うが、緩めの男が厳格な男の口と手足を取り押さえ身動き取れなくする。

 解こうと厳格の男は藻掻くが、緩めの男の力が意外にも強いらしく解けない様子だった。


 俺達はその隙に、聞き込みへと行く。


 この領地にはお店は無く、無人の店がそこかしこに立ち並んでいた。


「ここに200リンガル入れてください、盗まれないんか? これ」


 ジンが無人の店を見ながら、防犯面を気にしていた。


 やはり、どんなに不真面目そうでも一国の王子なのだろう、そういう所を気にするのを見ているとそう感じる。


「大丈夫よ、だーれも取りはしないわよ」


「うわ、びっくりした! 」


 ジンが急に何処からとも無く現れた、おばさんにびっくりし跳ね上がる。


「ここの領地の皆は助け合って生きてる、だから取り合いなんてしないわよ」


「ここで会ったし、ついでと言っちゃなんだが最近事件とかなにか無かったか? 些細なことでもいい」


「事件? 悪いけど心当たりはないわね。 力になれなくてごめんなさいね」


 このおばさんは心当たりが無いらしく、会った人全員に聞いたが皆口を揃えて無いと言う。

 すごく平和な土地なのか、ここは……?


 何も無いことはいい事なのだが、こうも口を揃えて一辺倒だと恐怖を覚える。


「ん〜、収穫はなしか。 とりあえず帰るか」


 ほぼ全員に聞いたが、皆同じ返答で調子も全て同じ一体どうなってるんだ。その奇妙さに少し違和感を感じる。

 しかし、悪い人ではなさそうだからより一層分からない。


「帰って来たか、変な事は……」


「ハイハイ、うるさい口塞ぎましょうね」


 厳格な男が口を開いたとほぼ同時に、緩い男が口を塞ぎ言葉を制止する。


 この二人は、他の人とは違う気がする。

 自我があるというか、なんというか言葉には出来ないが違う何かを感じる。


「帰って来たか、丁度いいご飯にしよう」


 家の中へ入ると、玄関前にドルゴスが立っていた。どうやら、ご飯に行く途中だったらしく俺達もその後に続いて行く。


 ご飯を食べる場所は、二階の一番左の部屋にあった。

 五十人は容易に入りなそうなぐらい、広いが今ここに居るのはたったの四人だけだ。


 この広さを見るに、昔は沢山の人がいたのだろう。


「ドルゴスさん、使用人とかは雇ってないんですか?」


「昔はいたさ、でもワシは歳をとった。 こんな年寄りの為に、貴重な時間を割いて欲しくなかった、だから今はこの小さな土地でゆっくりと過ごしてもらってるよ」


 ドルゴスは、優しい顔と口調で言う。

 良い人なのだろう、他者の事を考え行動し敬う。決して立場を利用しない、そんな人がこの世に溢れていたらのならば、世界は平和になるのだろう。


 隣国同士の争いも、強奪も、全て無くなるのだろう。


「食べたのは、そこに置いておくれ。 君達はお風呂に行ってきなさい、一階の一番右にあるから」


「え、いやでも食器ぐらいは片付けてから」


「大丈夫、魔法でチョイだから」


 ドルゴスは親指を立て、無邪気に片目を閉じてみせる。

 俺達は、言われた通りに一階へ降りお風呂に入る。


「私は、こっちなので。 えっと、会わないかもなので一応おやすみなさい」


「うん、おやすみ」壁に掛ける


 男、女、と書かれた石膏の札が掛けられており、勿論俺達は男と書かれた方へと行く。


「それでカイン、分かったか? 女心ちゅうもんは」


「全然さっぱりだ」


「おっと、それでも教えないで。分かったら言ってき」


 流れ的に教えてくれるのかと思ったが、ジンは手を前に出し教えないと言う。

 まあ、長くじっくりと考えてみるか。

ではまた。

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