三十四話 :エクリーン領地
賑わう大通りを抜け、王城へ着いた俺達は王の執務室へと向かっていた。
「親父はここで仕事してるはずや、この国を当分離れるからな、一応今日は取らなあかん」
ジンは、真面目に見えなそうで結構真面目な奴だ。
ドアを叩き、無作法にジンは中へと入っていく。
「おぉ、ジンじゃないか。 それにカインとラリン君まで、一体どうしたんだい?」
無作法も目に止めず、仕事の手を止め俺達の方を見る王様。
執務室は、難しそうな本が並んだ本棚が壁を作っていた。
「いやな、コイツらの仲間になろうかなと思ってな。 あ、でもちょっとの間やで、用事が終わったらまたこの国に帰ってくる」
「……そうか。 行ってこい、ジン」
「そんな軽く許可出してええんか? 親父」
「あぁ、息子がこの国を出て仲間と共に外の世界を見ると言っておるのだ、止める訳が無いだろう。 ジンよ、その世界を見てこの国のちっぽけさを学んでくるといい」
「自分の国をちっぽけとか言うなや」
王様は、優しい笑顔を浮かべこの国を離れることを了承する。
こんな、王様だからこそこの国は賑やかに賑わい人と人のいざこざが少ないのだろう。
皆が皆を認め、多様性を尊重し生きている国。素晴らしい国だ。
「それじゃあ、カイン達、少しの間やけどよろしく頼むで」
「あぁ、ようそこ。 ユニゾンへ!」
ユニゾンに、三人目の仲間ジンが加わる。
まあ、一時の間なんだかな。
「じゃ、俺達は宿に帰る。 あ、そうだジン。 いつこの国を出るか話し合いたいから、明日海の家に来てくれ」
分かった、とジンは答え別れる。
次の日、俺達は海の家に集まりこの国の出発日を決めていた。
「じゃ、この日に出るか? この日やったら天気も最高や、絶好の出発日和やと思うで」
「それじゃあ、この日に出発して次の目的地エクリーン領地に入るって感じでいいか?」
「そうですね。 ここから近い場所はここですし」
エクリーン領地とは、小さい国でとある領主が治めている。
ワインが盛んに作られており、その味は一級品らしく王族や貴族に親しまれている。
リークムスイアから一番近い国は、ここという事で次の目的地はここに決まった。
天気も、魔法天気予想図を見ると晴れと書いてあり絶好の出発日和だ。
「馬車はこっちで手配しておくわ、任せとき」
「ありがとう、俺達は荷造りを進めておくよ」
そして出発の日、空は魔法天気予想図の通り青が地平線まで澄み渡り、太陽の陽がこれでもかと降り注いでいた。
「それじゃ、忘れもんは無い? 」
「眼鏡よし、お弁当よし、帽子よし、忘れもんありません!」
「よぉし! それじゃあ、エクリーン領地へ向けて出発〜!」
ラリンが一通り荷物の確認をし、頭に手を当て敬礼のポーズを取り、馬車へ乗り込んで、エクリーン領地へと向かう。
「そうだ、俺親父から」
「これは……お金?」
ジンが渡してきた、袋の中には50000リンベルが詰められていた。
「リンベルは、世界共通の貨幣やからな。 最後のお小遣いだとか言って、渡してきたんや」
「まだまだ子供だと思われるね」
「もう二十七歳なのにな、子供やと思われたら気味が悪いで」
「え、ジン二十七歳なの……?」
「せやで、もしかして老けて見える?」
「逆、もっと若いかと思ってた……」
ジンの見た目から、俺は二十才前半かと思っていたが、もう半ばだったとは……。
本当に人は見た目で判断ができない。
もう何を信じて、人を判断したらいいんだ。
「そろそろ着きますよ、皆さん」
「おっと、もう着くのか。 リークムスイアの時は長旅だったからな」
リークムスイアの時は、打って変わって早く着いた。
出発したのは、朝だったがまだ昼ぐらいだろう。
「あ、見えてきました」
森を抜けると、ブドウ畑が一面に広がった小さな国が眼前に広がる。
ブドウ畑を中心に、人の住む家が立ち並び、一番奥に一際デカい家がある。おそらくあそこが領主が住んでいる家だろう。
「ブドウ畑多いな〜」
馬車から降り、周りを見渡すがブドウ畑と通り抜けてきた森と民家だけが広がっている。
視界の大半はブドウ畑が占めてるけど。
「とりあえず、領主に滞在許可貰いに行くか」
ブドウ畑を割いて、一本道が作られておりその奥には木造で作られた家が建っており、剣を持った男達が立っている。
「あの〜すみません。 領主さんに会いたいのですが」
「何者だ。 名を申せ」
「カイン・ローズベルトと申します」
「……カイン・ローズベルト? 聞いた事あるようでない名前だな」
一人の男が俺を訝しげに見てくるが、もう一人の男は顎に手を当て何かを考えいるようだった。
「思い出した。 ほら、リークムスイアに襲来したドラゴを追い返したと、言われてる冒険者だよ」
もう一人の男が考えていた事は、どうやら俺の事らしく、噂はここまで広がっていることを教えてくれた。
「有名人ですね、カインさん」
ラリンがイタズラな笑顔を浮かべ言ってくる。
こんな悪魔なら、イタズラされてもいいかもしれない。
「本当か? まぁ、いい入れ」
意外と簡単に通してくれるもんなんだ。もっと、難航するかと思っていた。
「領主の部屋は、二階の一番奥だよ」
緩めの男が領主の居る部屋を教えてくれる。
「玄関入ってすぐに階段がお出迎えか」
玄関を開けると、二階へ続く階段があった。
メイドさんとかは、居ないのだろうか?
人のいる気配も全然しなく、あるのは二階へ続く階段だけだった。
「二階の一番奥の部屋、と言ってもあの部屋しか無いよね」
二階には、一番奥にある部屋以外無く、すぐに領主の部屋が分かる仕組みになっていた。
「入るで」
ジンが覚悟を決め、扉をノックする。
「……誰じゃ、まあ、いい入りたまえ」
中から歳のとった声が聞こえ、中へ入るととヨボヨボのおじいちゃんが座っていた。
「えっと、領主さんですか?」
「あぁ、そうじゃ。 ワシがこのエクリーン領地の、領主ドルゴス・アガルじゃよ。 さして、お前さんらは何用じゃ?」
「僕達は、叡智化した魔物の調査をしに来た冒険者です。 ここに滞在する許可を頂けませんか?」
「いいとも、いいとも。 好きなだけ居なさい。 泊まる場所はこの家の離れにでも泊まりなさい。 一階におりて右を曲がると離れに行けるからの」
なんと、領地に滞在する許可もすんなりと頂けてしまった。そして、泊まる場所までも用意してくれた。
ここの人達は全員緩くて優しいのかもしれない。あ、でもあの人はかなり厳格だったな。
「じゃあ、二つ部屋があるから俺達男はこっちな」
部屋が二つあったため、ラリンは一人部屋で、俺とジンは一緒に寝る事にする。
ではまた。




