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三十二話 :狂信

 約束の日俺達は、待ち合わせ場所で二人を待っていた。


「キャァァ!」


「あっちの方で、一体何が!」


 大通りを少し奥行った所、女性の悲鳴が町に木霊し、急いで悲鳴の聞こえた方へと駆けて行く。


 女性が地面にお尻を付け見据えている先には、手足が切断され吊るされた男性と、壁に血で書かれた()()()()()()()()()という文字があった。

 気味が悪い……人を殺し、その人の血で文字を書くなど。


 それに魔王様は復活した、一体なんのことを言っているんだ。魔王はクリン・アルバルクが討ち倒したと言われているのだ、復活などするはずが無い。

 自分の狂信から生まれた妄想でこんな事をするなんて、イカれてる。


「ラリン、あまり見ない方がいい。 人が死んでる、四肢を斬り裂かれてる」


「そんな……誰がこんな事を……」


 後から追いついたラリン口を押え絶句し、信じられないと言いたげな感じだった。

 俺もそうだ。こんな凄惨な光景を目の前にしても尚、未だ心が信じようとしない。


「カイン達も、ここに来てたか。 俺も来る途中に悲鳴が聞こえてな、走って来たんや」


「そうだったんだ、酷い光景だよ。 人のする行為だと到底思えない」


「あぁ、ホンマにや。 なんでまたこんな事が起きてしまったんや」


 ジンは一度似たような光景を見たような口ぶりだった。

 しかし、今それを聞くべきではない。なぜかそんな気がした。


「……酷いね。これは」


「フィリル、いつの間に」


「いやね、私も悲鳴が聞こえて走って来たんだ。 そうしたらこれさ」


 フィリルは目の前に広がる凄惨な光景を見ても、動じずに凛と澄ました顔だった。少し笑っているようにも見えたが、気の所為だろう。


「とりあえず、ここに来る途中憲兵を呼んでおいた。もうじき来るはずやから、後はそいつらに任せてワイらは、どっか行こう」


 少ししたら憲兵が来てジンに敬礼をし頭を下げている、ジンはああ見えても王子様だからな。当然か。

 憲兵団に事情を説明し後を任せ、第一発見者の女性は話を聞く為連れて行かれる。


「ご飯を食べる前に、最悪なもんを見ちまったな」


「えぇ、酷いです。私許せません 」


「俺もや、でも俺らに出来ることは何一つあらへん。 ただ、あの現場を静観するしか無かった」


 ジンは拳を強く握り締め、悔しさを滲ませる。


「いいや、そうでも無いようだよ。 あそこには魔力の痕跡が僅かに残っていた、それを分析すれば犯人の居場所を突き止めることが出来るかもしれない」


「ほんまか! それ!」


「あぁ、本当だとも。 しかし、時間がかかる」


 フィリルが現場に残る僅かな魔力の痕跡を分析すれば、犯人の居場所が分かるかもしれないと言う。

 俺達に一縷の希望が指す。


 あんなことをする奴をこの世に野放しにしておく訳には行かない。心の中に燻るこの怒りを、放置しておく訳には行かない。


 必ず奴に報いを受けさせてやる。


「やってくれ、頼んだ」


「いいけど、何か他の訳もありそうだね。 聞かせてくれるかい?」


「……分かった。 ちょっと着いて来てくれ」


 ジンは人気の無い路地裏へと行き、古ぼけた一軒の家の中へ入って行く。


「さっ、入ってくれ。 ちょっと埃が凄いけど我慢してくれ」


 中へ入ると、ちょっと所で済まないほど埃が舞っていて薄暗く、寂しい雰囲気を帯びていた。


「ここは?」


「俺が昔、とある人と住んでいた家や。もう長いこと来てなかったけど、家は残しておいたんや。 思い出の場所やからな 」


 ジンは埃の被った棚を手で拭き、手に付いた埃を吹く。

 周りを見た渡すと、家具が置かれていて住んでいた事が分かる。


「今その人は?」


「亡くなったよ、五年も前の話やけどな」


 亡くなった。ジンの口ぶりで何となく察していたが、やはりそうだった。


「そうかい。 どうして亡くなったんだい?」


「とある捜査をしている時だった。 犯人を追いかけてる最中にヘマをして殺された」


「その捜査とは?」


「魔王様は復活する。 そう書かれ人が一人殺されていた。 さっき見たのと同じように殺されていた」


 魔王様は復活する、さっき見たのは魔王様は復活した。つまり、同一人物による殺害。

 だから、ジンは犯人を追い詰めてその人の仇を取ろうとしてるんだ。


「そうかい、もっと詳しく聞かせてもらえるかい?」


「かなり長くなるけどな、それでもええか?」


「あぁ、全然構わないよ」


 ジンは、昔何があったかを語り始める。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 今日は晴天の日で気分が良い。いいことが起きる前触れかもしれないな。


「もう、空ばっか見んでさっさと捜査行くで」


「空ぐらい見せてよ、せっかちなんだから」


 空を見ている俺に文句を垂れてきたのは、第五十憲兵団に所属するシルア・クラカ

 紫色の髪の毛を腰まで伸ばし華奢な体型をしている割には、強さは憲兵団随一という化け物だ。

 しかし彼女は憲兵団の皆から慕われていた。そして皆には隠しているが俺達は恋人同士だ。

 王子とただの憲兵団、その身分の差は途方も無いくらい高く俺達を阻む。憲兵団に俺が居ようと、俺の身分は王族。だから、この関係は隠して生きていくしかない。だが、二人でいられるならそれでいい。


 今日は先日起きた猟奇殺人の調査に行く事になっていた。

 発見された遺体は手足が切り裂かれており、壁に血で書かれた魔王様は復活する。という謎の文字が残されていた。


 一体何を指しているのかは分からなかったが、憲兵団は調査を進め謎を解く事にした。


「ていうか、前から思ってたけど王子のアンタがなんで憲兵団なんかに居るんや?」


「暇つぶし」


 俺は一国の王子だが勉強はしたくないという理由で、憲兵団に入る事にした。

 親父には、力を付ける為と適当な事をこきどうにか入隊する事に成功した。別に力なんて要らなかったけど、勉強するよりかはマシだった。


 ふーんと、シルアは興味なさげに返事をする。


「それにしても、昨日の殺人現場何か怪しい気がするんだよね」


「怪しいって、何が?」


「それが分からないのよ」


 シルアは、顎に手を当てうーんと唸りながら考える。

 昨日の殺人現場でなにかおかしな所と言ったら、魔王様は復活する。という謎の文言では無いだろうか?


 それでも、シルアは顎に手を当て推理する。何がおかしいのか、そしてこの目的は何なのかを。


「あー! 分からない!」


 結局分からなかったみたいで、その場で足踏みをする。

 頭を捻らせもう一度昨日の現場を思い出す。


 遺体の服装は緑色でズボンで茶色。そして、切り裂かれた手足が両脇に置かれていて壁にはあの文言が。

 ……やっぱりおかしな所あの文言以外無い。


「……ジン、剣を構えて。 囲まれてる」


「は?」


 人気の無い薄暗い路地裏に差し掛かった時、シルアが急に警戒を強め剣を抜き、俺にも剣を抜くよう指示を飛ばす。

 俺は何が何だが、分からなかったが言われたまま剣を抜き構える。


 来るわよ、シルアはそう前置き上から飛びかかってきた黒装束の男を斬る。


「ジン! 気抜いたら死ぬわよ!」


 俺を囲む黒装束の奴らは一言も喋らずにただこちらを見て、短刀を構え立っていた。


 来るわ!シルアの言葉と同時に黒装束の奴らが一斉に襲ってくる。


 右から来る太刀筋を剣でいなし、カウンターを決めようとするが左側の黒装束に止められ、鉄と鉄がぶつかり合い甲高い音が響き渡る。


 シルアの方には、三人。俺の方には二人。何とか応戦しているが、防戦一方だ。


 それに、あの憲兵団随一が押されている。


 コイツら、かなりの手練だ。しかし、町中で戦闘をすれば音が響きわたり仲間が駆けつけてくれるはずだ。それまで耐えよう。


「しつこいんや! あんたら! そんなんだと女の子にモテないわよ!」


 シルアは一人倒すが、あと二人。依然防戦一方なのは変わらなかった。


「おらあ!」


 カウンターが決まり一人倒し、防戦一方から抜け出す。


 残り三人。相手も負けると悟ったのか、後ろへジャンプし下がる。


「どうしたんや、こっちは二人やでかかって来な」


 シルアはこいつらをここで仕留める気だ。だから、こうやって挑発を。

 魔法を詠唱する時間も無い。剣技だけで応戦しなければならない。その状況をこいつはわかってるのだろうか。


 いや、コイツなら分かってても勝ってしまうか。


「来ないならこっちから行くで! ジン連携や!」


 連携。憲兵団の基本技だ。

 不利な人数は力を合わせて勝つべし。憲兵団教訓にある言葉だ。


 シルアが左に剣を振るい、その隙を狙おうとする敵を俺が倒す。そしてその隙を狙う敵をシルアが倒す。

 連携が組まれた俺達の攻撃に、相手は対応しきれずに簡単に倒れる。


「最初からこれしておけば良かったな」


「……気抜くな言ったやろ! アホが!」


 シルアに押され地面に倒れる。


「……相打ちや、残念やったな」


 シルアは、何処かに隠れていた敵の一人と刺し違え腹から血を垂らしていた。


 ダメだ、ダメだ、死ぬな!血を抑えようと止血をするが止まらない。心が強く握りしめられる。苦しい、目も熱い。


「ダメだ! 死ぬな! 今、助け呼んでくるから!」


「……無理や、私はもう死ぬ……それにお前も目から血が出てるじゃないか」


 左目は暗く、視界が奪われていた。押される時に目に剣がかすったらしい。

 でも、こんな痛みシルアに比べたら全然だ。俺を庇い、腹に剣が刺さり血を垂らしているシルアに比べたら、俺の目の傷なんて大した事ない。


「俺のせいだ。 俺が気を抜くから!」


「……お前空見てたろ? いい事あったか?」


「……あるもんか、今最悪の事が起こってる最中や」


「……ほな、いい事探し……せなあか……んなあ。 ジン……アンタにこれを渡そうと思ってたんや、ほら」


 よく二人でしたアホな会話。そして、二人の写真が入った時計。

 時計の針は、九時二十三分で止まっていた。


「この数字は……」


「私達が付き合った日だよ……それ、私だと思って大事にしてな……」


「……恋人からの最後の頼み引き受けた、任せな」


 握っていたシルアの手は、冷たなくなり力無く地面に落ちる。

 俺に力があれば……力さえあれば、シルアを救えた。力が必要や。この世は力が必要だ。そこから俺は力に固執するようになった。

 力があっても、大事な人は守れないことを知りながら。


 その後は憲兵団がやって来てくれて、シルアの葬式が行われた。

 大勢の人が悲しんだ。そして、俺の左目には俺を押すシルアの姿が投影され、俺はシルアの言葉を真似るようになった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「黒装束の集団……」


「ん? どうしたんや? カイン」


「あぁ、いやなんでもない」


 ジンの昔の話に出てきた黒装束の集団。それは奇しくも俺の村を焼き、母親を殺した奴と同じだった。

 しかし、違う所もある、喋らないという所だ。俺の村を襲った奴は狂ったように人を殺し、それを誇るように叫び喋っていた、一体何の違いが。


「そんな過去があったとね、だから魔王様は復活したの奴らと、魔王様は復活するの奴らは、同じと睨んだ訳か」


「そういう事や。 アイツらにはシルアの仇がある。 だから、ちゃんと生きて償わせなあかん」


「殺しはしないのかい?」


「せん、せん。 そんな事したらシルアに怒れてしまうからな。 アイツは本当に危ない奴しか殺さん。 それ以外は生かせと毎回言っていたからな」


「……そうかい。 話してくれてありがとう、私は分析をする為ここでお暇させてもらうよ。 ラリン悪いね、ご飯一緒に食べてやれなくて」


「全然大丈夫です。 また今度一緒に食べましょうね」


  「あぁ、一緒に食べよう」


「よし、じゃあ今日は解散やな!」



 俺達は宿へ、フィリルは分析へ、ジンは王城へと帰って行く。

ではまた。

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