三十話 :人の温もり
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町へ行くと、いつもの大通りは閑散としており、町の人達が全員逃げれた事を知らせていた。
避難場所になっている王城の地下へと向かうと、人で溢れ返っていた。
皆、不安そうな顔をしており笑顔が消えていた。いつも町で笑い合い、国を活気で溢れ返してる人達は今はその面影を無くしてしまっていた。
「ジンも、そなた達も無事じゃったか! はて、ドラゴンはどうなった?」
国王様が近付き、生きている事を確認するとドラゴンの事を聞いてくる。
「撃退したよ、ほぼコイツの手柄やけどな」
ジンが人差し指を伸ばし俺の事を指す。
「ドラゴンを撃退したじゃと……? いや、そんな疑い不要か。 そなた達が、ここへ帰ってきておる。 それが何よりの証紙じゃ、国を代表してここに感謝を示そう。 本当にありがとう、そなた達が居なかったら私達は今頃どうなっていたか……考えるだけでも恐ろしい。 本当にありがとう」
「いえ、そんなに褒められた事はしてませんよ。 ただ俺は自分のエゴを押し通しただけですから。 だから頭を上げてください、今は不安がってる国民の皆さんを安心させてあげてください」
王様が頭を下げ、お礼を言ってくる。一国を象徴する人が俺に頭を下げている。
未だ不安の表情をし行く末を案じている人達が、大勢居る。そんな人達を安心させれるのは、俺でもジンでもない。他の誰でもない王様が一番の適任者だ。
「ほら、早く安心させてやってください。 ここの国の人達は笑ってる方がお似合いですよ」
「……そうじゃな。 皆の者! よく聞くのじゃ! ドラゴンはかの者達が追い払った! だから、もう大丈夫じゃ!」
「ドラゴンを追い払った……? あのドラゴンをか?」
「嘘だろ……ドラゴンを追い払えるはずがない。 剣聖クリン・アルバルクが倒したと言われるドラゴンをあんな小僧達が」
「嘘だ、信じたくない」
ドラゴンを追い払ったという言葉を疑心する声が聞こえる。突如飛来したドラゴンは、人の信じる気持ちを閉じ込めてしまった。
当然だ。剣聖が倒したと言われるドラゴンを、ぽっと急に出てきた無名冒険者パーティーが撃退したと言ってるんだ。疑心するのも無理も無い。
「やっぱり疑われちゃってますね」
「まあ、当然の反応だろうね」
ラリンが少し落胆したように言う。
ラリンも分かっていたのだろうけど、実際疑われると心に来てしまったのだろう。
予想と現実の心のダメージは違う。 例え誹謗が飛んでくると分かっていても、それに耐えうるかどうかは、また別の話になってくる。
「お前ら! 疑うのも分かる、だけどなよく聞けよ! 勇敢にドラゴンへ立ち向かい、顔の面識も無いお前らを小僧達は助けようとした! そして、今ここに帰って来て立っている、それが何よりの証拠やろ! ……出来損ないのダメな王子からの最後の頼みや、コイツらを信じてやってくれ。 頼む」
「ジン……」
横に立っていたジンが大きく息を吸い込み、ここに居る全員に聞こえるように叫ぶ。
その声は、地下に響き渡り木霊し人は頭を下げる。
その姿を見たおれは言葉をなくしてしまった。最初出会った時は、口喧嘩をしてしまい関係性は最悪だった。
でも、ジンが一歩踏み出してくれて手紙を届けてくれた。そこから関係関は改善されていき、今は頭を下げてくれている。
「もちろんあたしは信じるよ! その子達は私のいちばんの客だからね」
「俺も信じるぜ、お嬢ちゃんは銀魚吊りは下手くそだけど、ドラゴン退治は上手いみたいだな」
「麦わら帽子を買ってくれた奴に悪い人は居ない。 俺も信じるぜ」
「美味かっただろ? 俺の塩だけで焼いた魚。 また食いに来いよ、だから俺も信じるぜ」
受付のおばちゃん、銀魚釣りのおっちゃん、麦わら帽子のお兄ちゃん、魚焼きのおじちゃん、皆が俺達を信じると次々に立ち上がってくれた。
まだ、数日しか居なくて、会ったのも一回だけなのに……俺を信じると言ってくれた。
……あぁ、この町は、国は本当にいい所だ。
目の下が熱くなり、涙が溢れる。
「あんたらはどうなんだい!? 信じるのかい? 信じないのかい?」
「信じるよ俺も」
「私も」
「僕も」
受付のおばちゃんの声から伝播した信じるという気持が、地下の人々を包み込み皆の心に出来てしまった、疑う心を溶かし、信じる心を与える。
人が不安な時に、人を安心させる事が出来るのは誰かを信用し安心することなのかもしれない。
それは一種の責任転嫁かもしれないが、それで安心できるのであればそれでいいと思う。
目からは涙が溢れる。
涙は止まらずどんどんと溢れ、頬っぺを伝い地面へど一滴、また一滴とするりと落ちていく。
鼻をすすり、涙を止めようとするが止まることを知らない涙は溢れ続ける。
「ありがとう……ございます。 本当にありがとうございます」
「カインさん、何泣いてるんですか。 カッコつかないですよ」
「そんなこと言うラリンだって泣いてるじゃないか……はは、これじゃあ二人ともカッコつかないや」
カッコがつかないというラリンも、大粒の涙を頬に伝わさせていた。
はは、ユニゾンはカッコつかない所まで同じなのかよ……。カッコ悪ぃ。
こんなに泣くのは……あの時以来だろう。
しかし、今はあの時の冷たさは無い。今あるのは、人の温もり、それだけだった。
◇◇
「……人の心とは、やはり邪魔だ。 この国を乗っ取るために催眠術をかけたのに効かない奴がいるとは困ったものだ。 まあ、いい。 私を勝手に崇拝してる奴らが人間を滅ぼしてくれよう。 奴らも人間だ、用済みになれば殺そう」
ではまた。




