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二十八話 :飛来

作者ページからTwitterに飛べます。Twitterで更新報告してます、よかったらどうぞ。

 屋台を一通り楽しんだ俺達は、腹も膨らませ宿へと帰ると、ふんぞり返って椅子に座ってるジンの姿があった。

 帰ってきた俺達に気付くと虫の居所が悪い顔で近付いてくる。


「小僧、これ」


 これと言われ、雑に手の上に一つの紙切れを渡される。


「これはギルドからの手紙?」


「そうや、お前達が何か頼んだんやろ。 俺は渡したからもう帰るで、それと次からはここに届けるように言っておいたから、もう俺は来ないからな」


「おう、ありがとうな。 ジン」


 ジンは何も言わずに宿を後にする。

 渡された手紙を部屋に戻り開ける。


「私も忙しいので今回は手短に書きますね。 カインさん達が幻覚を見せられたという花は、恐らくですけどマンダラケという花と思います。 詳しいことはまた送って下さい」


 と、締め括られていた。

 いつもの手紙とはテンションも違い、ギルドの忙しさが伝わって来る。


「マンダラケ……なんか面白い名前をした花ですね」


 ラリンがふふと微笑む。


「名前は面白いけど、あんな幻覚を見せてくるのは面白ねえよな……」


 名前は面白くても、効果は何ひとつとして面白味が無い。

 そして詳しい事を送るにも、俺が全てあの花を焼き尽くしてしまった。分析をしてもらうにも、してもらえない状況に自分で追い込んでしまった。


「あの花またどっかに生えてないかあ……」


 ないものねだりをするが、本当にないものねだりだ。

 この状況を、一気に変える一手も無い。


 しかし、よくよく考えてみると幻覚を見せるマンダラケは全て焼き尽くしてしまっているのだ。

 これ以上誰かが被害に遭う事も無いだろうから、別に送らなくてもいいのでは無いのだろうか。


 そう思い、この件は無かったことにする。


「解決しましたか?」


 深い皺を寄せ悩んでいる俺の顔が晴れ、ラリンが首を傾げ解決したか?と聞く。


「解決したに近い 」


「解決したに近い?」


 俺の言葉を不思議そうに噛み砕くラリン。


「近い、というのもマンダラケは俺が全て焼いてしまったから、これ以上被害は拡大しないし花の種類も分かったから、ギルドに詳しい事は送る必要は無いなって」


「なるほどです」


 ラリンは、腕を組む首を縦に振る。

 どうやら、今度はちゃんと噛み砕けたようだ。

 これにてこの問題はお終いだ。


 いやあ、終わった終わった。と一息つこうとした瞬間、宿の扉が勢い良く開く音がする。


 何事かと思い慌てて受付へと行くと、汗だくになったジンが、息を切らし膝を曲げ立っていた。


「ジンどうしたんだ、そんなに慌てて」


「ドラゴンや! 早い所ここの人達も避難させないとあかん!」


 ドラゴン。 それは他の国の文化にも疎い俺でも知っている。

 全ての者から畏怖の存在とされ、一部の人間からは信仰され神として祀られている。


 口伝では、こう言われている。

「姿現すほど、一国塵と化さむ。されど、聖なる剣うちいでその者追ひ返す」

 聖なる剣、それはクリン・アルバルクの事だろうと言われてるいるが、真実かどうかは確かではない。



「ドラゴンだって!? あのドラゴンかい?」


 受付のおばさんが、飛び上がり慌てて王城へ向かって行く。


「あのドラゴンや、だから早い所避難しな。 避難場所は王城の地下や、早く行きな。 小僧達もや」


「何言ってんだ、俺は戦うに決まってるだろ」


「は……? 戦う?」


 嘘を聞いたかのような表情をするジン。


「そう、戦う。 そうしないと町の人達は護れないだろ?」


「いや、小僧戦う言っても、相手はあのドラゴンやぞ? 勝ち目なんか無いて」


「勝ち目があるかどうかじゃない、俺は戦うしかないんだ。 まだ避難出来てない人達も大勢いるだろう、その人達を避難させるためには、戦うしかない。 そうだろ?」


「そうやけど」


 まだ俺の言葉を受け止めきれないジン。

 それもそうだろう。一国を砂の城を壊すように滅ぼすドラゴンと対峙すると、言っているのだ。

 易々と、はいと、納得出来るものでは無いが俺は戦う。


 聖なる剣が、クリン・アルバルクと言い伝えられているのなら今その役目を買うのは俺だ。


 だから、俺は戦う、命を賭して。


「さっきからカインさん、私を除け者にしてませんか?」


 不安げな顔でラリンが言う。


「……バレた?」


 ドラゴンと対峙するのは、一億の軍勢を相手に一人で立ち向かうようなもんだ。

 そんな危険な戦いにラリンを巻き込むわけにはいかない。


 そう思っていたのだが、どうやら当の本人は違ったらしい。


「バレますよ。 私も行きます、ユニゾンはいつも一緒ですよ」


「お嬢ちゃんまで……何でアイツも、アンタらもそんな命を賭してまでも誰かを助けようと思えるんや」


「救いたいから、それだけだよ。 自分の欲求に従う時に大層な理由なんて存在しないよ」


「私もカインさんと同じです」


 ジンは、俺達を架空の何かを見るようにに見つめる。


「……そうか。 分かった、俺も避難誘導が終わったら向かう。 死んだら許さんで、誰かを失うのはもう嫌だからな」


「おうよ、耐えてみせるさ」


 拳を丸め突き出す。


「待ってますね」


 ラリンが拳を合わせ、最後にジン三人で拳を合わせ合う。


「それじゃ、また戦場で!」


 その言葉を最後に、各々の戦場へと向かう。

ではまた。

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