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二十七話 :今日は観光です

Twitterにて投稿します。作者ページからどうぞ

「うぅ、母さん……」


 子供の足で逃げるには、近くの森まで限界で俺は蹲るように地面に座っていた。


「ガキンチョ、どうしたんや危ない所に一人で居たらあかんよ」


「母さんが、村の皆が黒い服を着た人達に……」


「一足遅かったか……ガキンチョここは危ない、俺と一緒に街へ行こう。 ガキンチョの歳ぐらいの子達がいっぱい暮らしてる家を知ってるからな」


「うん……」



 そんな俺に一人の男性が話しかけてきた、どんな格好だったか、どんな声だったかは確かには覚えてない。

 けれど、その男性のおかげで俺は助かり、俺と同じ歳の子達が集まる施設へと入れられた。


 今日もまた思い出したくもない、記憶の断片を見る。



「……ハッ!ハァハァ……また、この夢か。二日続けて見るなんて、 服も汗でびちゃびちゃだ。 着替えて寝よう」



 目が覚め、また服が汗でびちょ濡れだった。二日連続でこの夢を見ることは無かった。

 一日見て、また何週間後それはあったのだが、こう連続的に見る事は無かった。とりあえずは、服を着替えまた眠る。



「……ん、朝か。 ラリンは寝ていると、起きてラリン朝だよ」


 目が覚め、窓の外に目をやると朝日が昇っており朝だと言うことを知らせていた。

 横に目を移すと、いつもは先に起きているはずのラリンはまだ眠っていた。

 ラリンに声をかけ、起こす。



「朝ですか? 私はパンが大好きです〜」


「ラリン、今は朝ご飯の話はしていない。 ちなみに俺もパンは好きだぞ」


 目が覚めたラリンは、まだ夢の中だと思っていたのかそれとも寝ぼけていているのか、唐突に私はパンが大好きと言い出す。


「えへへ、私もパン大好きです」


「ほら、寝ぼけてないで朝食食べに行くよ」


「は〜い」



 俺もパンが好きだぞと言うと、溶けた声で私もパンが好きですとレスポンスを返してくるのだが、その姿が辺りにも可愛すぎて、一瞬気が失いそうになったが、何とか正気を保ち朝食へと向かう。



「目覚めた?」


「バッチリ覚めました……あんな姿カインさんに見せたくなかったので、毎日頑張ってカインさんより朝早く起きてたのに……」



 目が完全に覚めたラリンは、さっきの姿を見せたことを後悔しているのか沈んだ表情でご飯を黙々と食べている。

 そして、毎朝目が覚めるとラリンが先に起きていた理由は、先程の自分を見せたくなかったからというなんとも愛おしい理由だった。



「毎朝起きるの早いなとは思ってたけど、そんな理由があったのか」


「お恥ずかしながら」


「てことは、ラリン朝苦手なのか?」


「得意という訳でもなければ、苦手でもない感じです」


「中間って事か、毎日無理して起きなくてもいいのに、気にしないよ?」


「い、いえ! 頑張って起きます」


「お、おぉ、そんな健気に言われると応援したくなっちゃう。 じゃ、これから毎朝頑張って起きて下さい」


「頑張ります!」



 別に朝早く起きなくても良いよ?という事を伝えたが、ラリンはどうしてもあれは見せたくないらしく、これからも頑張って早起きをするとの事だ。

 健気な姿を見せられたら、応援するしか道という道しか残ってない。



「ギルドに送った手紙の返事も来ないし、今日はやる事がないなあ」


「なら、町の方へ行って観光でもしませんか? 面白そうな露店もちらほらと見えていたので」


「観光か、魔物の調査も討伐もしたし一日ぐらいやすんでも良いか、 よし、今日は観光だ!」



 部屋に戻り、やることがなくて何をするか迷っていたら、ラリンが観光をしませんか?と提案をしてくる。

 


 確かに今日はギルドの返事も来てないし、つい最近魔物の調査も討伐もしたから、ここいらで羽を伸ばしても文句は言われないはずだ、と思い観光をすることに決めた。



「うわあ! すごい数の露店があります! あそこにもあそこにも、何個あるんでしょうか!」


「はは、落ち着いて落ち着いて。 露店は走って逃げたりしないよ、一つ一つゆっくり見て行こうぜ」


「取り乱してしまいました」


「しょうがないよ、こんな数の露店がナロス共和国で見れるのは、祭りの日とか特別な日だけだからね」



 町へ行くと、ナロス共和国の祭りの日と同じかそれ以上の露店が並んでおり、この町の活気の良さを表していた。

 町の大通りを行き交う人々は、大きな荷物を持ち笑顔で元気に通り過ぎていた。

 そんな露天の一つの帽子屋へと、俺たちは足を進めた。



「似合ってますか? この帽子」


「うん、似合ってるよ。 まるで、そうだな太陽みたいだ」


「太陽みたいですか……?」


「あ、えっと似合いすぎて眩しいみたいな?」


「似合いすぎて眩しい……うふふ、そうですか似合いすぎですか」



 上は丸く膨らんでおりつばがその周りをグルっと囲むような帽子を、一つ取りラリンは被る。

 似合ってる?と聞かれるが、そんなの似合ってるに決まってるであろう、言葉には言い表せない良さが詰まっているが、言葉で表さないといけない場面俺は必死に言葉を捻り出すが、なんともお瑣末な返答をしてしまった。


 しかし、そんな返答でもラリンは気に入ってくれたらしく、口角を上げえへへと笑う。



「? 何かおかしな事言ったか?」


「あ、いえ、こっちの話です。 あのこれ一つ下さい」


「あいよ! 毎度あり! 二千リンガルね!」


「気に入ったの? その帽子」


「秘密です」


「ええ、これ秘密なの?」


「はい、秘密です」



 余程さっきの帽子が気に入ったのか、購入までした。

 気に入ったの?と聞いても秘密とはぐらかされてしまった。

 そんな会話をしていた俺達の目に銀魚釣り、と書かれた看板が目に入る。



「あっ、あれなんでしょうか?」


「銀魚釣り? 魚を釣るのか?」


「あの、これって何をするんですか?」


「おっ、いらっしゃい。 銀魚釣りはな、この丸い輪っかでこうやって、掬うんだ」



 何をするか露店のおっちゃんに聞くと、水に濡らしたら直ぐに破けてしまいそうな丸い輪っかを取りだし、器用に水槽の中で泳いでる銀に輝く魚を一匹ひょいと掬ってみせる。



「おお、凄いですね。 一回やらせてください」


「あいよ、百リンガルね」



 それに感心したラリンは一回だけやらせてもらうことにするが、取れずにもう一度チャレンジをする。



「むむ、取れません、もう一回お願いします!」



 それでも取れず、少し涙目になる。



「と、取れないです……」


「ガッハッハッ! こんなに取れないお嬢ちゃん初めて見たよ! ほら、これサービスやるよ!」


「良いんですか!?」


「おういいとも! こんな可愛いお嬢ちゃんの泣いてる顔なんて見たくないからな!」


 そんなラリンを見た露店のおっちゃんは、気前よく一匹サービスだと言ってくれる。


「良かったねラリン」


「はい!」

 

 その後は、露店に売っている串刺しにされた魚の塩焼きを食べ、宿へと帰ると俺達を待っている見慣れた人物が一人偉そうに座っていた。

ではまた。

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