二十三話 :悲しいは海の波に流しちゃえ
「どこに泊まりますか?」
「ん〜どうせなら、海の近くの宿に泊まるか」
「……海! そうでした! 海に行きましょう!」
「宿を探して、明日行こうか。 もう日もすっかり落ちてるし」
「あ、そうでした……。 えへへ」
王城から出ると、日もすっかり落ち込み月が空へ顔を出していた。早いとこ宿を探さないとな。このままじゃあ、野宿だ。海に盛り上がるこんな可愛い天使を、外に寝かせる訳にはいかない。
「こことかどうかな? 海も近いし外見も綺麗だ悪くない」
「窓から綺麗な海が見えそうですね」
海の家と書かれた看板の宿を見つけ、引き戸の扉を開け中に入る。
「いらっしゃい。 二人かい?」
受付のおばさんが、二人かい?とちょっと眠そうに言う。
「はい。 二人でお願いします」
「あいよ。 二百リンベルだよ」
「あ、これでお願いします」
「これは…… アンタ王様の招待客かい。 豪華なもんは出せないがゆっくりしていっておくれ。 部屋はそのを右に曲がった所だよ。 これ鍵ね」
招待状と交換に貰った、金色の紙を渡すと王様の招待客かいと、言われ部屋の鍵を渡される。どうやら、これは王様の招待客だということを示す紙らしい。
「ありがとうございます」
「ご飯の時を食べたい時は、そこの食堂に来ておくれ。 それじゃ、ごゆっくり」
食堂は受付の左にあり、右には客の部屋が広がっていたりカインたちの部屋は、前から数えて二番目の場所だった。貰った鍵で扉を開け、あることに気付く。
部屋は一つだけ。という事に。
「二人かい?」この言葉は二人で一つの部屋かい?という意味だったらしい。普通は気付くであろうことを、見落としていた。
「……あのラリン。 相部屋だけど良かった? 今から二人分の部屋取ろうか?」
「だ、大丈夫です! さっ、荷物置いて海に行きましょう……。 いて!」
ラリンに、相部屋でも大丈夫か?と聞くと大丈夫と答えてくれたが、荷物を持ち綺麗に壁にぶつかる。大丈夫とは一体。
「本当に大丈夫?」
「全然大丈夫です! 今はその荷物で、前が見えなかっただけです」
「ま、まあ。 そこまで言うなら」
念を押すように大丈夫と、言われたのでそのまま相部屋にすることにした。
「ご飯食べに行きましょうか」
「行こうか」
空気と気分を変えるように、俺達は食堂へ向かいそのまま寝る。
そして次の日、念願の海へ行くため受付を通り扉を開けようとすると、受付のおばさんに声をかけられる。
「お二人さんどこか行くのかい?」
「海に行こうかなって思って」
「その格好でかい? 水着は?」
「水着? なんですか? それ」
どこへ行くのかと聞かれたので海に行くと言うと、水着は?と言われる。水着?何だそれ?
「あらまぁ! 水着を知らないのかい! 海に入るための服だよ。 その服で入る訳にはいかないだろう?」
「た、確かに……。 それでその水着はどこで買えますか?」
「ちょっと待ってな。 使ってない水着が何個かあったはずだよ」
おばさんは、受付の奥の部屋に入りガサガサと何かを漁り出すと二つの見慣れない布面積が少ない服を持ってくる。
「ほら、これ! お嬢ちゃんに似合うと思うよ! お兄ちゃんの方はこれね」
「こ、こんな布が少ないんですか? おへそまで出ちゃいますよ……」
一つは、布面積がほぼ無いと言って過言ではない服をラリンに。二つ目は、膝から下がないズボン。
「なぁに! これが普通さ! ほら、お嬢ちゃんはこの奥で着替えな、お兄ちゃんは部屋に帰って着替えて来な。 着替えたらここ集合しなさい」
ラリンはその服を恥ずかしそうに見るが、おばさんに普通だと言われ、強引に奥の部屋に連行されて行く。
俺も部屋に帰り、渡された服に着替え、受付の前に戻る。二分ぐらい待つと、ピンクのフリルが付いた水着を着たラリンがモジモジと恥ずかしそうに出てくる。
「お兄ちゃんお待たせ! ほら、どうだい似合ってるだろう?」
「カ、カインさんどうですか? 似合ってますか?」
「……えっと。 うん似合ってる可愛いよ」
似合ってますか? 似合ってるに決まってるであろう。言葉を忘れてしまって、出すのに少々時間がかかったぐらいだ。
あっ、すぅ……生きてて良かった。心の底からそう思う。
「そ、そうですか。 えへへ、なんか恥ずかしいです」
「そ、そうだね」
「さっ、行った! 行った! 」
おばさんに背中を押され、海の家を後にする。海の家から、海はすぐ近くで歩いて二分ちょっとで着いた。
間近で初めて見る海は、太陽の光を吸収し宝石のような煌びやかさを放っていた。
見る者の目を、全てそこに集中させるそんな能力さえもあるように思えた。
「うわあ! キラキラ輝いてます! 早く入りましょう!」
「あ、ちょ」
テンションが上がりに上がりまくったラリンに、腕を引っ張られ海に連れて行かれる。
「うわあ、冷たいです。 確か海は塩っぱいって聞きました。 どれどれ」
「そんな一気に行って大丈夫か?」
手をおわん型にし、いっぱいに溜まった海の水を一気に飲む。もし、本当に塩っぱいならそんなに飲んで大丈夫か?
「……! 塩っぱすぎます……。 でも、塩っぱいのは本当でした」
体全体を震わせ、塩っぱさを表すラリンだが、塩っぱい事が分かった方が嬉しいのか顔には空に上がっている、太陽のような笑顔を見せる。
「あはは、そりゃ良かった。 ケイヒンとも来たかったな」
「そうですね。 でも、前を向くと決めたんです。 その悲しみも、この海の波に流しちゃいましょう!」
「そうだな……海に流しちゃうか」
海を見ていると、ケイヒンとも来たかった。そう思ってしまう自分がいた。
ラリンは海の波に流しちゃいましょうと言い、海に腰を下ろす。
俺も流してもらうか。ラリンの横に座り、海の彼方に続く水平線を眺める。
ではまた。




