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二十一話 :立ち止まるんじゃないわよ

「……ここは 」


 目が覚めると、白い部屋に俺の手を強く握り締め不安そうに眠っているラリンが、布団に顔を伏せていた。


 昨日は確か……ギルドから解剖結果の手紙が送られてきて、近縁種のキルベークタイガーをラリンとケイヒンと、共に討伐しに行ったんだよな。


 そしたら、街の方がいきなり爆発して。そうだ。爆発したんだ!

 街は、皆はどうなったんだ!?


 思い出そうとするが、頭に靄がかかり何も思い出せない。

 ……何でだ。なんで思い出せないんだ。

 必死に思い出そうとするが、記憶の靄は晴れない。


 まるで、思い出しくない事から逃げるように靄がかかる。


「……カインさん! 起きたんですか!」


「起きたんだが、何も思い出せないんだ……街が爆発し降りた後からの記憶が一切思い出せないんだ」


「……」


 ラリンは辛そうな顔をし、なにか言おうとしたが躊躇ったように見えた。


 記憶が無い俺は、嫌な胸騒ぎを覚える。

 いや、本当は覚えていたんだ。思い出そうとしなかっただけで。


 辛いことから目を背けたくて……何も無かったことにしたかったんだ。


 だから、俺はきっとラリンに一縷の希望を抱いて何があったかを聞いたんだ。


「……ケイヒンが亡くなりました。 カインさんは三日間眠り続けて、カインさんまでも死んでしまったんじゃないかと……私は心配で……」


 赤く腫れ上がった目から涙を零しながら、ラリンはそう言う。

 そして、俺は思い出す。三日前に起きた出来事の全てを。


 背けていたかった現実を突きつけられる。

 俺はラリンに、ケイヒンは生きていると言って欲しくて記憶を封印したんだ。


 でも、そんな華々しい未来は何処にもなく。あるのはケイヒンが死んでしまったという悲しい未来だけだ。


 目から涙が零れる。止めようと思っても、濁流した川のように流れ落ちてくる。


「そうか……やっぱりそうだったんだ。 ラリンありがとう全て思い出したよ。 でも俺は前を向いて歩くよ。ラリンとの約束があるからね」


「カインさん……。 そうですね……いつまでもクヨクヨしてられません。 私達にはやるべき事があります。 それを無視してずっと悲しんでたら、ケイヒンさんに馬鹿って怒られてしまいそうですもんね」


「はは、そうだな」


 そうだ。ここで立ち止まってたら、ケイヒンに怒鳴れてしまう。

 笑って前を向いて、一歩踏み出すんだ。

 燻ってちゃ何も変わらない。何かを変えるには。動かなきゃ。


「ホントよ。 ここで立ち止まったらタダじゃおかないんだから。 ちゃんと前を向いて歩きなさいよ……やるべき事を終わらせてこっちに来た時は、お茶会をしましょ。 約束よ」


 暖かい声が頭に響く。しかし、その声は口調はおかしくて、ほっぺに星を書いてて、頭はピンクのモヒカン。そんな派手な格好をした国一番の護衛人の喋り方に似ていた。


 分かった……やるべき事終わらせてそっちに向かうよ。その時は、俺達のとびっきりの冒険譚聞かせてやるからな。


「ラリン。墓参り行こうか」


「そうですね。お葬式はカインさんが眠ってる時に終わっちゃいましたし」


「えぇ!? まじか!」


「まじのまじですよ」


「見守ってるわよ。ひよっこちゃん達」


 お城の外に出ると、絵の具の青をぶちまけたかのように、美しい青空のパレットが広がっていた。

ではまた。

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