十九話 :復讐の闇鬼
「それじゃあ、また明日ね貴方達」
「うん、また明日」
「はい、また明日です」
ケイヒンと別れ、明日大通りの噴水前で会うことを約束し城へ帰る。
城へ帰るってなんか、王族になった気分だな。謎の特別感があり、高揚するが蓋を開けてみれば俺は平民だけどな……はは、悲し。
「カイン様。 お帰りになりましたか。 どうでした?魔物の調査は」
「キルベークタイガーの近縁種が見つかったよ。 それ以外は特にだね。 今はそのキルベークタイガーをギルドに送って、解説してもらってるところ」
「キルベークタイガーの近縁種ですか。 魔物の新種は本当に珍しいですな。 私もこんな長く生きておりますが、魔物の新種発見瞬間に立ち会えたのは初めてですよ」
「やっぱり珍しいのか。 早く調査して実態を掴まないとな」
「そうですな。 期待しておりますぞ。 では、ご飯の時にまたお呼びに行きますので、ゆっくりお休み下さい」
七十年ちょっと生きてるファンガでも、魔物の新種発見に、立ち会えたのは初めてだと言う。
やはり、この状況は異常事態なのだろう。早く調査しないとな。
「はぁ〜疲れた。 休みたい休みたいって、言ってた矢先にこれだからなあ。 疲れてしょうがないよ」
「でも、そんなこと言ってても助けちゃうのはカインさんの良いところですよ」
「うわっ!ラリン! どうして俺の部屋に」
体が疲れ、ベットに座り独り言をぶつくさと言っていたらラリンが扉を開け部屋に入って来ていた。
気付かなかった……心臓止まってあの世に行っちまうかと思った。
「お疲れになってると思いまして、紅茶を持ってきました。一緒に飲みませんか?」
「紅茶か。 いいね飲もう」
ラリンの手には、ティーカップとティーポットが下げられており、紅茶のいい香りがする。
あの、葉っぱを煮出した味は何とも言えない味だが美味しい。好き嫌いは分かれそうな味はしてるけどな。ちなみに俺は大好きです。ミーンには負けるけどな。
「はい、どうぞ。 熱いので舌をやけどしないように気をつけてくださいね」
「ハッハッハ、火傷なんてするかよ……。ってあっち!」
「気をつけて下さいと言った矢先にこれですか。 ふっふふ」
ご丁寧に火傷しないでくださいね、と忠告してくれたのに俺は火傷なんてしないと、天狗になり紅茶を飲むが、思ったより熱く舌を火傷してしまいラリンに笑われる。
「あ、笑うなよ 」
「あはは、ごめんなさい。おかしくて」
「はは、それもそうだな」
忠告したのに、無様に火傷する俺の姿はおかしいだろう。俺もそう思う。
「ここに来た時は、こんな風になるとは思いもしませんでした。 王様に良くしてもらって、ケイヒンさんとも出会えました。 今日はカイザお爺さんに、装備も作ってもらえて冒険っていいものですね」
「本当だよなあ。 俺達は恵まれてるよ。運にも周りの人にも。 ラリンに会えたのも必然だったのかもな」
「私もそう思います。 カインさんとなら、何があって乗り越えられる気がしてます。 これから二人で頑張っていきましょうね」
「あぁ、そうだな。 この魔物の調査が終わったらゆっくりギルドの待合室で休もう」
この調査が終わったら、いつもの待合室でゆっくりしてラリンと談話でもしたい。こういう誰かと触れ合い絆を深める幸福も良いが、やはり些細な幸せも良いものだ。
小さな幸せがあるからこそ、大きな幸せもあるってもんだ。それを忘れてはならない。
「あっ、そうだ。 明日魔物の調査が終わったら、ケイヒンと一緒にお茶をしましょう。 きっと楽しいはずです」
「ケイヒンにお茶か。 似合わねえな」
あのガタイに小さなティーカップか……それにあの格好だしなあ。似合うか?ピエロが、化粧を落とさずに紅茶を飲むようなもんだからな。子供が見たら泣くかもしれない。俺がもし、子供だったら大泣きする自信があるね。
「もしかしたら、すごく似合うかもしれませんよ?」
「その可能性もあるな」
「お楽しみの所、申し訳ありませんが。 ご飯の用意が出来ました」
「ラリン、ご飯が出来たって行こう」
「はい!」
明日の事を話し合っていると、扉をノックしファンガがご飯の用意が出来たと言い来ていた。俺はラリンと共に、ご飯を食べに行く。その日は風呂に入り、そのまま眠ってしまった。
起きた俺たちは、待ち合わせの噴水前へ行く。
「いやあ、いつ見てもやっぱりあそこは凄いよな……圧倒される何かがあるわ」
「ふっふっふ。 私はもう慣れちゃいました〜!」
「な、なんだと!? 俺より先に富豪になってしまったか」
「そうです! 私は富豪になりました!」
「こんな大通りで、どんな会話をしてるのよ……貴方達」
大通りの噴水前で昨日ご飯の事を面白おかしく話していたら、その会話の一部始終を聞いていたケイヒンが不思議そうに近寄ってくる。
「あっ、ケイヒン。 待ってたよ」
「カイン。これギルドからキルベークタイガーの解剖結果が届いたわよ。 ギルドも新しいキルベークタイガーという事で、力を入れたみたいね。 一日で結果が返ってくるなんて」
「どれどれ」
「カインさん! お久しぶりです! 私です! 早速本題に入りますが、送られてきたキルベークタイガーを解剖した結果。 近縁種と判断されました。 それとこの個体は幼体と推測されてますので、これからもこのキルベークタイガーを見つけて討伐しましたら、ギルドへ送ってください。 よろしくお願いします。 では、ご健闘を祈っております」
ギルドからの手紙をケイヒンから受け取る。手紙の封を切り、中身を読むと受け付けのお姉さんの字で解剖結果の報告が書き記されていた。
それにしても、テンション高ぇなあ。こんなにテンション高かったけ? 一日で解剖結果を送って来るってことは、ギルド側もかなり本気で対策しに行ってるんだな。
「テンションの高い子ね」
「手紙でこんなにテンション高くなる人、そうそう居ないよ」
「よし、それじゃ。 近縁種と判断されたキルベークタイガー探しと行きましょうかね 」
昨日と同様に、ファンボ山で近縁種探しをしていたらラリンが一匹の青いキルベークタイガーを見つける。それは昨日の青いキルベークタイガーより、少しだけ角が成長しており心做しか体躯もでかく見える。
「あっ、ケイヒンさん。 カインさん。 見てくださいあそこ。 前のキルベークタイガーより少しだけ角が長いです。 成体になりかけぽいですよ」
「本当だ。 よし、俺が先陣を切って周りのキルベークタイガーを蹴散らすから、青いキルベークタイガーは、ケイヒンとラリンに任せた」
「任されたわ」
「任されました」
「スキル―二代目剣聖発動!よし!今だ!」
「よいしょぉ! ラリン今よ!」
「やぁぁ!」
「うん。 これで討伐完了ね。 後は剥いでっと、ギルドに送ったら完了ね」
先陣を切り、青いキルベークタイガーの周りを固めてる普通種達を蹴散らし、青いキルベークはケイヒンの大剣で怯ませ、ラリンがとどめの一撃の弓矢を脳天にぶち込み討伐する。
討伐が終わり、一息つこうと地面に座ろうとすると、町の方から大きな爆発音と共に黒煙が上がるのを視認する。黒煙は町で何かあったことを知らせる。
「……! 何今の音!」
「ケイヒン! 街の方から煙が出てる!」
「私が不在の時に! あぁ、もう! 皆には手を出させないわよ!」
「ラリン行こう!俺達も皆を助けよう!」
「は、はい!」
急いで、ファンボ山を下りると街には倒壊した家と逃げ戸惑う人達でごった返していた。火事も起きており、煙で視界も最悪最低だった。人の悲鳴、泣き声が町に響き渡る中、ウィン……ガシャン。と煙の中から何かが動く聞き慣れない音が響く。
煙が晴れて、出てきたのは鉄を身にまとった謎の生物だった。
真ん中には小さな赤い目。両方の手は鋭利に尖っており、足は自立出来るように四足方向。それら全てはまるで作られて、人工的に付けられたかのようだった。人工物……?いや、あんな鉄の塊を作れる技術なんてこの世界には無いはずだ。
「……。何よあれ……鉄の塊が動いてる……?」
「自立した鉄の塊……?」
「ケイヒン! 助けてくれ! 街がまた壊されてしまう!」
一人の太った男性が、ケイヒンに泣きつく。その男性の肩を持ち、ケイヒンは笑いながら安心させるように言う。
「任せなさい。 私は国一番の護衛人よ? よっしゃゃあ! 行くわよぉぉ! その鉄をスクラップしてやるわよ!」
最初からスロット全開にし、二代目剣聖を発動し光の刃を鉄の塊に向かって放つが、カキン。と言う音ともに弾かれる。
二代目剣聖が弾かれた!?あれが弾かれる硬さだと!?
「最初から全開だ! スキル―二代目剣聖発動!弾かれた!? 」
「ケンセイ……シニン。 ハイジョ」
スキルを弾いた鉄の塊は、ケンセイシニン。ハイジョ。と言葉を発する。
どうやら、知性があるようで俺に用があるらしい。
「言葉を喋ってます! 知能があるみたいです!」
「知能があるのかよ……二代目剣聖も効かないとは。 なら、スキル―神魔法の練達者! ウィザーリングギルティ!」
神魔法の練達者を発動し、ウィザーリングギルティも放つが鉄の塊は傷一つ付かない。
クソ!何でだ!二代目剣聖も効かないだと!?クリン・アルバルクと同じ力なのに!
「駄目です! 効いてません!」
「硬いわね! この鉄! これじゃあジリ貧よ! しかも、あれは何!? 鉄の塊を凄いスピードで撃ってきてるわ!」
「分からない! でも、今は耐えるしかない! スキル―神魔法の練達者! セイクリットウォール!」
鉄の塊は、肩から謎の物を出しそこから鉄の塊を撃ってくる。セイクリットウォールを出し、防ぐがこのままでは倒しきれずにジリ貧なのは確定だ。
それになあ!鉄の塊から、鉄の塊とかややこしいんだよ!知性あるなら、せめて名称言ってから撃て!
「スキル―弓術LvMAX発動! 駄目です弾かれます! あの赤い目も全部固いです! まるで歩く要塞です!」
ラリンが、弓術LvMAXを発動し弓矢を放つがそれすらも効かない。アイツの前では全てが無意味と化す。
「どうする……どうすれば。 外は固い。 なら、中から攻めるまでだ! スキル―神足通発動! よし、すり抜けた! スキル解除! 」
外が固いなら、中はふにゃんふにゃんかもしれない。神足通を発動し、剣が透過した途端にスキルを解除する。
すると、どうだ。さっきまで元気よく鉄の塊を撃っていた鉄の塊が、煙を上げ動かなくなる。
急いで、神足通を発動し剣を抜き後ろへ退避する。
「ギ……ギ……」
その数秒後剣が透過した鉄の塊は、爆発し黒い煙とドス黒い血を地面に垂れ流す。
「まずは、一体!」
「カイン! まだよ! 避けて! 」
「カインさん!! 避けて下さい!」
「……くっ!」
爆発したと同時に頭の中に、他の鉄の塊が俺を攻撃するのが流れ慌てて避けるが、その次の攻撃は頭は流れ込んで来ず、俺はその攻撃に気付けなかった。全てを見通す力が、また発動しなかったのだ。体勢は崩れており、今から避けるという事は不可能だった。
鋭利が腕が俺を目指し振り落ちてくる。全てを見通す力に甘えすぎていた……。
終わった。と思いを閉じるが痛みが襲って来ない。
どうしたんだ?と思い目を開けると腕が腹に貫通したケイヒンが俺を守るように、覆い被さっていた。
「……殺させないわよ。 私の大事なトゥークは私が守るのよぉぉぉ!」
腹に穴が空いたケイヒンは、最後の力を振り絞り大剣を横に振り鉄の塊を一刀両断する。血がボタボタと、地面に落ち赤い水溜まりを作っていく。
あぁ……嘘だ。嘘だよな……。ダメだ。ダメだ。死んじゃダメだ。嫌だ。嫌だ。お茶をする約束もまだ言ってないのに。嫌だ。嫌だ。
そんな言葉が俺の心を覆い尽くす。
「……ケイヒン血が! 大丈夫だ。 今治すからな。 スキル―聖光魔法…… 」
「……無駄よ。 聖光魔法は確かに回復魔法の最上位、だけどね……死にかけの人間は治せない。 人を生き返らせるのは禁忌なのよ。 人間がやっていい事じゃない」
傷を癒すために聖光魔法を発動させようとするが指で、口を抑えられ詠唱を中断させられる。
あぁ……ダメだ。俺が慢心してたから。アルバルクと同じ力だと過信していたから。俺のせいだ。俺が……俺が。
自分に対する憎悪が、憎しみが、嫌悪が溢れ替える。
「でも、俺のせいで……俺が慢心してから……剣聖だからって大丈夫だと思ってたんだ……でも、でも……そんなことなくて」
「もう、何泣いてんのよ。男でしょ。 それに、アンタを庇って死ぬのも人生の運命だったのよ。 アンタは悪くないわ……だか……ら……笑いな……さい……よ」
その言葉を最後に、大木のような腕は力無く地面に落ちる。抱えているケイヒンの体は、みるみると冷たくなっていく。
「ケイヒンさん……。 そんな……」
「ケイヒン……? おいケイヒンってば。 この後お茶しようって、ラリンと話してたんだよ……おい目を覚ましてくれよ……。 悪い冗談はよしてくれよ……」
冷たくなったケイヒンを揺らし、言葉を投げかけるがいつものの口調で返してはくれない。赤く塗られた口は青くなっていき、開かれることは無かった。
「ヒトリシボウ。 ヒキツヅキケンセイハイジョ」
まるで人を玩具かのように、殺した鉄クズを睨む。コイツには心が無いんだ……。あぁ……だったらグチャグチャに壊してもいいよな。こんなクズ殺しても別にいいよな。
「……なあ鉄クズ。 スクラップにされる覚悟は出来たか?」
スキル―復讐の闇鬼を獲得しました。
スキル―復讐の闇鬼発動。
ではまた。




