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十八話 :そんな見た目の理由

「よし、これで青いキルベークタイガーの死体はギルドへ送れたわね。残った普通種のキルベークタイガーの素材は、良質でいい防具になったりするからカイザ爺さんの所に持っていきましょうか」


「カイザ爺さんって?」


「ファンボ山の麓で一人寂しく、武器加工職人をしているお爺さんのことよ。 昔からお世話になっていてね。 腕は確かよ」


「あぁ! 国王様が言ってた人か。 ケイヒンも知ってるんだな」


 どうやら、国一番の加工職人はカイザ爺さんと言うらしい。名前からして強そうだな。

 それにしても、ケイヒンもお世話になってるのか。国一番の護衛人はやはりちゃんとした所で、武器を作っているのか。


「勿論よ。 あの人には昔からお世話になってるからね本当に」


「へえ〜そうなんだ。 じゃ、取り敢えずそこに向かおう」


「私か案内するわ。着いてきて」


「ここが……武器加工職人が居る場所……?」


 ケイヒンが案内してくれた所は、木々に囲まれ周りには川が流れており、オンボロな苔石造りの小屋が一つだけポツンと立っていた。こんな辺鄙なところに住んでいるなんて、仙人かなにかなのか?


「外見はオンボロだけど、中身はちゃんとしてるわよ。 ほら、入りましょ」


「ん。 ケン坊か。 どうした?」


「キルベークタイガーの素材を使って武器を作って欲しいのよ。 この子達の分もね」


「お前達は……そうか。国王様が言ってたのはお前らか。 よし、任せろ」


 どうやら、カイザ爺さんは俺たちのことを国王様繋がりで認知しているらしく、武器を作ってくれる事になった。カイザ爺さんは任せろとだけ言い残し、奥の部屋へ入って行ってしまった。鉄を叩く甲高い音が工房に響く。


「カインさん、カインさん。 これ見てくださいケイヒンが写っています」


「ん?どれどれ? 本当だ。 ケイヒンとガリガリの少年とモヒカンで屈強な男達の集合写真なのか? 色々とカオスだな……」


 暇になった俺達は、カイザ爺さんの小屋を見て回っていると、壁に貼られた薄汚れた古い集合写真を見つける。

 その集合写真に写っていたのは、ケイヒンに似た人物と横にはガリガリで小枝のような少年がおり、周りには屈強なモヒカン集団が笑って立っていた。


「あぁ、それは私の兄よ。 そのガリガリの少年って言うのは昔の私よ」


「え!? これケイヒンじゃないのか?」


 よーく見ると、確かに頬っぺの星のマークが逆になっていた。ケイヒンは左側だが、お兄さんの方は右側に星が彫られていた。


「えぇ。 懐かしいわね。 カイザ爺さんを待ってる間に私の過去の話でもしましょうか?」


「気になるから頼んだ」


「頼まれたわ。 でも、そんなハッピーな話では無いことを先に言っておくわ。 この写真の頃の私はまだ十歳の頃ね。 周りにいる人達は兄のパーティーメンバー達よ」


「かなりの数が居たんだな」


「街一番のデカさを誇っていたわ。 でも、やってたことは街を守ることを主にしてたわ。盗難をした人を捕まえたり火災が起こったら火消しに行ったりと、もう半分自警団みたくなってたわ。 クエストも街近辺の魔物の討伐とかだったしね。 兄たちのパーティーは街の人達から信頼されて行くのは当たり前の事だったわ。 もちろん、私もそんな兄達を尊敬していて、いつか兄達みたくなりたいと思っていたわ」


 この集合写真はケイヒンのお兄さんのパーティーメンバーの集合写真らしく、街一番のデカさを誇っていたとの事だ。

 しかし、やっていることは普通のパーティーとは違う。クエストを受注しどこかへ行って討伐。というのはないらしい。まあ、ここからナロス共和国へ討伐報告をしに行くのは面倒臭いしな。

 なんで、クエストは他国でも受けれるのには報告はナロスへ行かなければ行けないのだ。実に面倒臭い制度だ。


「そういうパーティーもあるのか。 良いな」


「でも、ある日の事よ。 ファンボ山から魔物が降りてきたのよ。普通は起こらないことが起きて、皆パニックになった。兄達はそんな人達を安心させる為に、前線に立って魔物達を倒して回った。 私は怖くて怖くて、仕方なくて足が動かなくて路地裏に一人隠れていたの。 そんな私の目の前には涎を垂らしてお腹を空かせた一匹の大型の魔物がやって来た。 前線には兄達がいるから大丈夫だろうと鷹を括ってたわ。 別の方向から降りてきた魔物は私を食べようと襲って来た。 けれど、私は傷つかなくて上から血の雨が垂れてきたのよ。垂れた血は兄のものだった。 別の方向から降りた魔物にいち早く気付いた兄は後を追ったのよ。 その先には食べられそうな私が居て、兄は私を庇って血を垂らした。死ぬとわかっているのに。 最後の力を振り絞って大剣を振ったけど、そんなの体が持つはずなかった。傷口から血が滝のように傷口から噴き出して、兄は地面に倒れ伏したのよ」


「そんな。 そんな事が」


「でもね、最後に兄は笑って私にこう言ったのよ。『笑いなさい。貴方を護って私が死ぬのも人生だったのよ。 それもまた人生の運命だったのよ。 だから貴方は悪くない。 笑いなさい。 この世界を照らせるぐらいに』その言葉を最後に兄は冷たくなって、屈強で頼もしかった大木みたいな腕は地面に落ちたわ。 私はそこから強くなろうと思い、兄の真似をした。 それが今の私よ」


 ケイヒンの姿は、お兄さんの遺志を継いでの事か。

 俺は初めて見た時ケイヒンの姿を馬鹿にしたことを、心の中で謝る。

 今のケイヒンの姿は、集合写真のお兄さんそっくりだ。腕は大木のように太く背中は全てを預けられる頼もしさを醸し出している。そんな、お兄さんだったからこそ皆も着いて行ったのだろう。そんなケイヒンだからこそ、国一番の護衛人になれたのだろう。



「……そんな話が。 お兄さんはカッコイイ人だったんだな。 ケイヒン。俺はまだお前と一日しか一緒に過ごしてないけど、ケイヒンは強いよ。 国一番の護衛人さんだしな」


「えぇ。 ケイヒンさんは優しくて強い方です。 流石国一番の護衛人さんですね」


「うふふ、ありがとうね。貴方達」


 過去の話が終わると同時に、カイザ爺さんが奥の部屋から出てきて出来上がったばっかりの防具を投げ渡してくる。渡されたのは、キルベークタイガーの革で出来た防寒着二着だった。これから寒い所に行く予定があるかもしれないから有難い。


「ケン坊! 出来たぞ! 持ってけ!」


「ありがとうカイザ爺さん。 また来るわね」


「おう、いつでも来やがれ。 そこの坊主と嬢ちゃんもな」


「有難うございます! 」


 俺とラリンは、小屋へ戻っていくカイザ爺さんにお礼を言いケイヒンの後を追う。

ではまた。

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