百二話 :ラリン・テイルズ
未来へ我が子を。これから途絶えるであろう純魔法族の血を。世界が排他しようとしても、希望は紡がれる。
カリンとガーディアンは魔法陣に血を垂らす。
「元気でね。 ラリン」
「……これを入れておこう。 お前は俺の名を捨てるんだ。鑑定士に鑑定されてもこの名ならば、疑問に思われないだろう」
ラリン・テイルズは、ラリン・アルバルクとなった。
もし、テイルズの名を持っているとまた知られたら見に危険が及ぶかもしれないと判断したガーディアンは親友の名を娘に授けた。
これから行く先は二人のいない寂しい世界だが、それでもこの子は強く生きてくれると確信していた。
「無責任な自分たちを呪ってくれても構わない」
「ごめんね、ラリン。 本当は貴方とまだ居たかった。 ごめんね」
頬を伝う大粒涙。拭えど溢れる。止まることを知らない涙をまだか弱く細くて、柔らかないラリンの手に落ちる。
「まま、ぱーぱ」
「……ごめんよ、ごめんな」
ラリンは最後にママ、パパと呼んでみせた。最初で最後の我が子の名前呼び。もう二度と呼ばれることもない。現実はさめざめとしていた。
こんな世界有り得ていいはずがない。一体自分たちが何をしたというのだ。平和に暮らしていたのに。魔王を倒せば、平和になると思っていた。けれど、それは間違えだった。
魔王を倒したところで人間は人間同士で争う。平和なんてやってことないんだ。
「……チャース」
◇◇◇
「……私の本当の名前はラリン・テイルズ?」
「まだ混乱しているかもしれないけど、これが闇に屠られた歴史」
「そう、なんですね。 良かったです。 お父さんとお母さんがいたってことだけ知れて。 私は生まれた時から親が誰かも知らずに生きてたんです。 親はいないと思っていました。 でも、居たんですね」
「君は本当にそっくりだ」
ラリンの目からは雨が降っていた。居ないと思っていた両親は200年前に亡くなっていたが、確かにこの世を生きていた。
それだけで充分だった。
ではまた。




