第七話 破壊
第七話 破壊
ただの無差別攻撃を作戦のように指示してくる無線の相手はわざとプロのような口ぶりで言っている気がしてならない。だが、例え相手がどんなバックグラウンドを持っていようが犯人の手がかりゼロでは何の抵抗も出来ない。
指示通りの時間まで間もなくとなった。既にトラック荷台において三脚上に重機関銃のセットは終えている。この辺りの店はほとんど屋台だし、なぶり同然の行為だろう。
時間だ。
五分以内で完了させるため、オレは躊躇なく撃ちまくった。楽器のバスドラムに薬きょうが落ちる金属音が混じって狂気じみた超ハイピッチの音楽を奏でているようだ。
もともとオレは白兵戦が得意で大型武装に慣れていない。そして街で闇雲に発砲するなどという愚行はもちろん経験がない。激しい良心の呵責とも戦わねばならなかった。
二分ほど経過して屋台の通りはほぼ粉々に粉砕された。予定より早いが十分な成果だ。オレはすぐに荷台の幌を下ろして、逃亡した。
翌朝、街は大騒ぎだった。
見たこともない数の警察官がいて、一定間隔で歩哨のように立っている。
防災無線で落ち着いて行動してくださいとか、不要不急の外出はするなとかスピーカーから聞こえてきてやかましい。
市場が壊滅してしまったからな。
軍用兵器を使用したことも明らかということで警察だけでなく我が軍も駆り出されて実況見分を行っている。
オレは通行人のフリをして様子を見に行ったが、本当にひどい有り様だ。もしただの住人だったら怒りと憎しみは相当なものだろう。
人でなしとはこういうことを言うのか。
アジトに戻りぐったりしていると……
『トーリ君、昨夜はご苦労だった。次の指示だが――』
「おい貴様、いい加減にしないか! 二人を返せ! ちゃんと言われた通りやっただろうが!!」
『……う~ん。一回だけとはこちらも言ってはいないが?』
「ふざけてんじゃねえ」
『もちろん、こちらも大まじめだ。二人の娘を返すためにはもうちょっと仕事をしてもらわないとな。ただ、もうやりたくないというならそれはそれで君の考えも尊重しよう。その代わり二人には早すぎる人生の終焉を迎えてもらうことになる』
「……クソ野郎」
『トーリ君、口の利き方に気を付けたまえ。娘たちの命はわが手にあるのだ。おわかりかね?』
「……ああ、わかった」
『じゃあ、次は王国城を真昼間に爆撃してもらおうか』
「なに!?」
『城だよ。作戦日は明日。中途半端なことをしたら……わかっているね?』
「……」
『あれ、返事がないようだが……』
「わかった!」
『よろしい。ではまた明日』
「ちょっと待て! 城攻めを一人でやるんだ、携行型地対地ミサイルを用意しろ。それ以外に方法はないぞ」
『……いいだろう。数日待て』
「ああ、待て。ドローンも数機用意しろ。偵察用で良い」
『注文が多いね。まあよろしい。では』
グリース王国の城は市街地の南東部にある。周辺は堀になっているし城壁が高く地上から目視で確認は出来ない。GPS式で座標をセットしてミサイルをぶっぱなすしかない。
だが、もしこんなことをやったらどうなるか……
恐らく今回も本国製ではない兵器が使われるだろう。分析されればどこの国の物かはすぐわかる。場合によっては他国との戦争の引き金になりかねない。
それ以前に城の中でどれだけの血が流れるだろうか。
二日後の夕刻。
ヤツから通信が来た。今度も場所を指定してきたが前回とは少し異なり、オレのアジトに比較的近い位置で、おおよその見当はつく。今度も同じように廃工場だろう。
オレはトラックに乗り込み指定場所に行った。前回と同じように中を歩かされ階段を上り屋上の倉庫に入るよう指示をされた。恐らく前回と同じパターンだろう。ここでオレは一計を講じた。
「ドローンが一機故障しているぞ。代わりを用意しろ」
オレからの問いかけにヤツが応じてくれるかがカギだが……
『……仕方ない。そのままそこで待て。動いてはならないぞ』
よし。
「ああ、わかっている」
ここでオレは生体探知を発動させた。
いた!
こちらに向かってくる人間が一人。だがここで焦って行動したら駄目だ。アイカとルクシーが今どのような状況かがわからない以上、ヘタなことは出来ない。それにヤツが単独犯とは限らない。いやこれだけの兵器を用意できるのだからむしろ組織と見るのが常識的判断だろう。
ソイツは屋上まで上がってきたが、すぐに下へ降りて行った。恐らくドローンを持ってきたのだろう。重要なのはここからだ。絶対に逃してはならない。
『トーリ君、代わりのドローンを用意した。階段付近まで戻ってきてくれればそこにある。作戦は明日だ。良いな?』
「ああ、わかった」
会話をすると集中力が落ちるので、少々対応がおざなりになった。ヤツに気付かれていなければ良いが。
すぐにでも追いかけたいところだがオレは監視されている可能性がある。普通だったらまず兵器をトラックに積まなくてはならない。
だが、もしヤツが車で移動してしまったら、この間にオレの生体探知の範囲から外れてしまうだろう。そうでないことを祈るしかない。
オレははやる気持ちを必死で抑え込み、作業を終えた。既に十分近く経過しているが……
ヤツはまだオレの索敵範囲にとどまっていた。この速さなら多分徒歩で移動しているのだろう。しかしいつ車両に乗るかもしれない。オレは急ぎつつも真っすぐに目標に向かわず適当に迂回しながらヤツを追跡した。