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第四話 再会

第四話 再会




 軍の中にもまれに魔術が使えるヤツが居る。先祖に妖精の血が混じっていたりするとその力が発現することがあるのだ。そんな連中は早々に召し抱えられる。いや、その言い方だと聞こえはいいが実際は妖精の子孫ということで身分は低く、その一方で戦争では最前線で攻撃系や防御系の魔法を何度もかけさせられ衰弱してしまう。そして最後は早死というコースだ。

 そんな人によって施されたと思われる魔法で四肢をガッチリ固められた妖精をオレは偶然にも発見してしまった。

 一見、大木の枝から伸びたツルが巻き付いているだけのようだが、幹の部分に薄色ながら古代文字が書かれているため、オレは気付いた。


 しかし最も驚いたのはその妖精の顔を見てからであった。


 囚われの身になっているのは半年前、森に潜入したオレに何度も火属性の攻撃を仕掛けてきたあの金髪の妖精だったのだ。


オレはじりじりとゆっくり距離を詰めた。妖精は疲労困憊のようでぐったりしていて頭を下げている。


 向こうはオレの顔を見たら気付くだろうか? あの時ももう辺りは暗くなっていたが、滝へ飛び降りる瞬間、一度だけ目が合った。だから覚えている。それに忘れたくても忘れることは出来ない。つい最近までこの時の怪我で不自由を強いられたし顔のやけどに至っては一生治らない。

 オレは両手にナイフを持って構えた。このまま首を切ることは出来るのだが、それこそ文字通り『寝首をかく』こととなりオレの美学に反する。また当時のことでコイツに訊きたいことがあった。

 右手のナイフを持ち換え、自分に刃先が向くようにしてから妖精の頬を軽く叩いた。しかし反応がない。もしかすると……と思いたくなるがオレの生体探知がビンビン生存反応を教えてくれる。コイツは間違いなく生きている。

 もう一度頬をつつく。するとかすかに口元が動いた。


「おい」


 オレは思い切って声を出してみた。だが、今度は微動だにしない。オレは右手のナイフを専用ホルスターに収納してから迷わず彼女の頬を引っ叩いた。


 平手打ちの乾いた音が響いた後、観念したのか目を開ける妖精。


「オレを覚えているか? 半年前に森でお前がもう少しのところで取り逃がした兵士だよ。おかげで命拾いしたが顔はこんなだし、背中もやけどと打撃が原因で未だに復帰できていない。結果としてお前の目的は一部達成したわけだ。だが、どうだ? この状況、立場が逆転したな?」

「……」


 妖精は何も語らずこっちを睨んでいる。

 オレは尻のホルスターから刃先が赤く光っている別のナイフを取り出して、妖精を拘束している魔術により生成されたツルを切断していった。

 このナイフは解呪が施されている。我々兵士も誤って魔術によるトラップに引っかかる可能性があるからだ。だが、妖精たちはこの方法は勿論のこと、他の解呪法を知らない。だから自力で脱出できないのだ。

 だったら最初から魔術で戦えばいいじゃないかと言いたくなるが、魔術師の心身への負担が大変大きいし、そもそも魔術師自体が数少ない。戦術としてはこんな感じで時々罠を張るくらいしかできないのだ。


 全ての解呪を終え妖精の体が自由になったことを確認後、オレは踵を返し再び姉妹の母親探しを再開することにした。



「何故です? 貴方はなんで私を助けたのですか?」



 妖精がオレの後を追ってきて問いかけた。体の向きは変えず顔だけ振り向いて返答した。


「もう、オレは事実上軍人じゃない。それにオレもお前も自分の国のために働いただけだろ?」

「しかし、私は貴方の身体に沢山の傷を負わせました。恨みはないのですか?」

「う~ん、確かにそうだが、もう終わったことだし、オレにはやることがある。今はそっちで頭がいっぱいだ」

「……」

「じゃあな、気を付けて帰れ」


 最後、アイカやルクシーに話しかける調子でしゃべってしまった。癖だな。

 歩き出してから少しして後ろを振り返るとあの妖精はまだ立ちすくんでいた。さっさと帰ればいいのに。そもそもここは我が国領土内の山林だ。交戦中の妖精が入りこむ場所じゃないのだ。



 結局、夕方まで捜索を続けたものの今日はその姉妹の母親に関する有力な手掛かりは見つけられなかった。だが、猪肉と毛皮の土産で二人には勘弁してもらおう。そう考えながら山を下り、我が家が見えてきた時、辺りはもう暗くなっているのにもかかわらず小屋の明かりが点いていないことに気付いた。


 胸騒ぎがしたので走った。


 山小屋に着いてすぐに戸を開けたががらんとしていて物音がしない。小屋の裏や庭も見たが人の気配が全くない。さらに小屋の周辺を必死に駆け回ったがやはり居ない。


 一旦落ち着こうと決め、小屋に戻ってからオレは自分の生体探知能力を使っていないことに気付いた。なんという失態だ。慌てて発動させてみたが……駄目だ、感じない。

 まさか彼女たちはこの小屋を出て行ってしまったのだろうか?

 仮にそうだとしてもあの子たちはちゃんとしている、置手紙くらい……


 ハッとして家の中のテーブルや机などを見て回った。


「あった!」


 しかし彼女たちの筆跡ではない。そこに書かれていたのは


『娘たちはこちらで預かっている。要求は後ほどする』


 それだけ書かれていた。

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