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第十三話 アイテム

第十三話 アイテム




 オレの装備にハンドガンはあるが、視力を失われた状態では例えおおよその敵の位置がわかったとしても、致命傷を与える確率は低い。

 装弾が十五発。マガジンもあるが、盲目状態で戦闘しながらリロードは無理だろう。

 当てずっぽうで命中させられるかもしれないが……やってみるか。


 オレは立ち上がってヤツの悲鳴が聞こえた位置に数発撃った。


 耳をそばだてたが、恐らく弾丸は地中に埋まってしまったのだろう。サトーの反応は感じない。こうなると今度はこっちが危ない。オレは立ち上がってしまったわけでこれでは格好の的だ。

 オレはまた闇雲にジャンプし、着地と同時に腹ばいの体勢になってから辺りの気配を伺った。しかし何も感じない。今度は向こうがどこかに潜んでいると思った方がよさそうだ。

 それでもヤツの目と耳はまだ完全ではないはず。オレは一旦サトーと距離を取ろうと試み、ほふく前進で移動した。

 途中、樹木に頭が当たったり何かで手を切ったか噛まれたりしたようだが、構わず進んだ。なぜならオレの場合、生体探知がある。近距離より中距離以上の方が今のオレには優位に立つことが出来る。


 サトーは動かないでじっとしている。アイツも何らかのダメージを背負っているのかもしれない。それともオレが突っ込んでくるのを待ち構えているのか。

 アイツもプロである以上、あの局面でオレがスタングレネードを使ったことやハンドガンが当たらなかったことでこっちの状態を大体知っただろう。


 なんとかヤツの位置を掴めないだろうか……


 オレが祈りにも似た想いを抱いた時、胸のポケットの中がかすかに動いた気がした。

 概ね五十メートル以上、サトーとの距離が開いたところで、オレは木の幹に寄りかかってポケットに指を突っ込むと、手に触れるものがあり先ほどシリから受け取ったイチョウの葉を入れたことを思い出した。これは……お守りかな?


 残念ながら感慨にふけっている時間は無いようで、ヤツが動き出した。なぜだかはわからないがこっちに迷いなく向かってきているようだ。オレは木に登りヤツの死角と思われる対称位置にある枝へ回り込んだ。


 不思議なことにイチョウの葉がさらに小刻みに振動してそのふり幅が大きくなってきている。まさかと思うが検証のため、オレは下に降りて敢えてサトーがやってくる方向へ歩いてみた。するとさらに葉が大きく揺れた。もしかするとこの葉は危険を察知してくれるセンサーのようなものなのだろうか。またはオレの生体探知のようなものとか……だが、もし同じ類だとするなら至近距離で正確な位置はつかめない。戦闘支援アイテムにはなるが、今のオレにはどれくらい役に立つか……


 サトーはもう十メートル以内にまでやってきた。


「トーリ君! さっきは驚いたよ! さすが機密急襲部隊だ。だが、今の君は完全に視覚を失っているようだね。それじゃあもうお手上げだろう。悪あがきはもうやめにして出て来るんだ! こっちは熱感知装置があって君の位置は掴んでいる」


 サトーは声高に話すことによって敢えて自分はここだと示しオレを挑発している。腹立たしいヤツだ。

 だが、確かに今のオレに有効な手立てはない。このまま見つけられるまでじっとしていてもなぶり殺しにされるだけだ。 イチかバチかで突っ込むしかないか……


 そう思った時――


「トーリさん」


 激しく動いていたイチョウの葉が勝手に外へ飛び出してしまったようだ。それが発煙し始めた。これは発煙筒だったのか!?

 ……ん? アレ? 景色は見えないのになんでこれは見えるのだ?


「違います……私です」

「……え!?」


 煙は人型になり少しずつ実体化……いや、輪郭があいまいで透き通った形状の――


「アメリ!? どうして!?」


「お静かに。これは私の分身です。そして時間があまりありません。私が貴方の目になり、身体を補助します。どうか信じてゆだねて下さい」

「……あ、ああ」


 大混乱に陥り、冷静に戦局を分析できなくなってしまったが、ここにいるのはアメリだ。それだけは間違いない。


「トーリさん、アミーが来ます。まずは私が手を引きますから一緒に!」

「あ」


 オレは親に手を引かれる幼児のように足をバタバタさせながら走った。しかしこれでも障害物にぶつかる心配が要らないのでそれなりの速さで移動できた。


「身を屈めて下さい。そして銃を取り出してください。まだ弾はありますか?」

「あ、ああ……」

「トーリさん!」

 未だ混乱状態でボーっとしているオレにアメリは強くオレの名を呼んだ。

「あ? ああ、銃だな。……そ、そうだな」

 今のオレは目が見えないのにマガジンを取り出してしまい、手も震えているせいで地面に落としてしまった。


「す、すまん」

 素人以下の失態だ。

「落ち着いて下さい。私が拾います。ですが、二~三発あれば十分でしょう」

「え?」


 アメリは本当にそれしか装填しなかった。その理由は他にあった。


「見つけたよ~、トーリ君。君は勇敢な兵士だと思っていたけど案外、往生際が悪かったんだね」

 

 サトーだった。

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