第十話 過ちと悔恨
第十話 過ちと悔恨
「アイカ! 説明してくれ!」
オレが余りにも大声を出すものだから、彼女は泣き止んでしまった。
「このお姉さんはね、私たちを逃がしてくれたの」
「なんだと……?」
「……トーリ……さん」
彼女はまだ息がある。オレは彼女を抱きかかえた。
「おい、しっかりしろ! すまなかった、本当にすまなかった……」
「……いいんです。この子たちがあなたの元に……帰れたなら……」
「なぜ……なぜこんなこと……」
「あなたはこれだけの傷を負ったのに……私を助けた。お礼です」
「馬鹿な……ここは軍の施設だぞ。こんな危険な場所に妖精がたった一人で……」
「……お礼です」
彼女はにっこり笑ってから息を引き取った。
「おじさん、これ……お姉ちゃんから」
うな垂れるオレにアイカが渡してきたのはくしゃくしゃのメモだった。中にはこう書いてあった。
『二人を誘拐したのは貴方の上官であるサトーです。あの者は人間ではありません。アミーという悪魔です。彼の目的は混乱と不信です。貴方に破壊行為をさせたのも人間同士や国同士が争う情勢を作りたかったからです。サトーは王国内ではなかなか隙を見せないでしょうけど、妖精の森にも彼の拠点があります。私と貴方が出会ったあの場所です。私も当時は見抜けなかった。だからアミーからのリーク情報によって貴方を襲撃したのです。本当に申し訳ありませんでした。アミーとグルになっていた妖精王は追放致しましたし、あの集落に住んでいる者たちには事情を話してあります。今度は私たち妖精から攻撃を受けることはありませんからご自身の思うとおりになさってください。/アメリ』
オレは手紙を握りしめた。
この妖精はアメリと言うのか。死んでしまってから名を知ることになるとは……そして殺したのはオレだ。
家路の途中、オレは何も口から発することはなかった。
彼女の亡き骸は後部座席にある。娘たちも何も言わずに彼女の手を握っていた。
アメリが残した手紙は暗にこう言っている。『妖精の森の中なら戦える』と。
山小屋に到着するとオレはすぐに同期のケハラに連絡し、ボイスレコーダーで録った誘拐の実行犯マーカスとの会話を聞かせ、アメリとの一件を全て話した後、そちらで一時姉妹を預かってくれないかと懇願した。彼は非常に困惑していたが、サトーの肉声とオレに最初に連絡してきた時の加工された声をデータで送るから科学部に回して検証させればわかると言ったらようやく納得した。そしてこういう会話が続いた……
『トリー、オレに出来ることはないか?』
「お前はオレの言ったことをきちんと裏付けして他の上層部に告発しろ。そして妖精との戦争はこちらと向こうのトップの画策したものだと広く知らしめろ。それで戦争は終わる」
『わかった、やるぞ。それでお前はどうする?』
「オレはやることがある。頼んだぞ、ケハラ。……ああ、それとだな、お前の知り合いで腕のいい魔術師がいたら後で紹介してくれないか? 頼みたいことがある」
『……魔術師? 一体何を頼むんだ?』
「今は言えないが、心配には及ばんよ。それとだな、関係があると言えばあるが、アミーと名乗る悪魔について調べてくれないか?」
『わかった』
「じゃあ、頼んだぞ」
翌早朝、オレはアイカとルクシーを車に乗せてケハラの家に二人を預けた。
さて、既にマーカスが行方不明になったと警察に連絡がいっている可能性がある。そうすればいずれサトーにも知られることになるだろう。もしかするともう知っているかもしれない。
時間はない。
オレはトラックでもう一度山小屋に戻ってから妖精の森へと向かった。