完全無欠の絵
この絵を見た者はみな死んでしまった。
完全無欠の美に比して、互いの肉体の醜さが我慢ならなくなったのだ。
万人にとって最高の、ただひとつの芸術品を目指して、この絵は描かれた。
世界中のどの画家も、そのような作品は描けなかった。
必ず個人の画風がにじみ出てしまい、鑑賞する者しだいで好き嫌いが分かれるからだ。
絵を完成させたのはコンピュータだった。
人々は完全無欠の作品に触れた瞬間、それ以外の芸術品の不完全さに耐えられなくなった。
美術館と図書館と博物館を破壊し尽くすと、使い勝手のために芸術性を損なっている人工物というものが許せなくなった。
あらゆるドアからドアノブがもぎ取られ、ドア自体が建物からもぎ取られ、出入り口自体が建物ごと破壊された。
完全無欠の絵を描いたコンピュータさえも破壊された。
世界から人工物がすっかり無くなってしまうと、汚れた獣や、虫食いのある葉や、いびつな小石が目障りになった。
こうして醜い地球そのものが消滅した。
コンピュータが何を描いたのか、わたしは知らない。
何にせよ教えてくれる者がいたなら、わたしも即座に死を選んだだろう。
絵を破壊するべきだろうか?わたしはそうは思わない。
破壊しようと破壊すまいと、知らなければ存在しないのと同じだからだ。
絵の裏側にしがみついたまま虚空をさまよう限り、わたしはわたしの存在を許容できる。
それで充分だ。