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GENOM-劣性遺伝子-  作者: ももす
2/3

友達


「…き……くし…!」


「…う、…そう」


ん、、、男の人、、と女の人の声、、、

誰が僕を呼んでいる、、、?


「櫛木!起きないか!」


大きく怒鳴ったのは担任の酒井(さかい)

どうやら眠ってしまっていたらしくえらくご立腹だ。


「ふふ、宗ったらまた徹夜?」


軽く笑いながら小声で話すのは幼馴染みの

神代絹(かみしろきぬ)


絹は日本の長い歴史が始まって以来

式内社のトップに君臨し続ける由緒ある神社

神永日神宮(かみながひじんぐう)の一人娘だ。

式内社とは、国が定める神社の格式

つまりランキングの様なものだ。


黒く長い髪をいつも高い位置でひとつに結っている。

流石は、絶世の美女と謳われ仁徳天皇を射止めた

髪長比売(かみながひめ)の子孫だけあり

誰もが美しいと言えるだけの造形をしているだろう。


「おーい、劣性遺伝子は起きてる事も出来ないのかー」


それに(なら)いクスクスとした笑い声や同じ様に

馬鹿にした様なセリフが教室を飛び交う。


「ちょっと、、!」

「良いんだ。」


絹が立ち上がるのを制し柔らかく笑って見せる。


「だって、、、」


絹はいつも庇ってくれる

彼女は僕とは違い皆の人気者だ。

同じナチュラルでも、彼女は特別。


「はい、そこまで。

 お前ら、授業続けるぞ、いいな」


そうだ

今は確か日本史だ。


「えー、、、皆も知っての通りこの世界はナチュラルとゲノムの2つに二分化された。

500年以上前、第三次世界大戦の前にいたおよそ60億の人類は約1/100までに減り世界は壊滅状態にあった。


その危機を救ったのが、櫛木と新田のご先祖様だな。」


教室の真ん中辺りに位置する席で得意気な顔を見せるのは

世界を牛耳っていると言われる大企業

〝ニューコーム社〟の御曹子

新田彩士(あらたさいじ)だ。


あの新田博士の子孫と言うだけあって

頭脳明晰に容姿端麗、更にはスポーツ選手の遺伝子まで組み合わせたらしい。

何を隠そう、ニューコーム社はゲノム編集を確立させた

櫛木宗一郎博士と新田文(あらたふみ)博士が創設したのだ。


つまり彩士はゲノム編集の恩恵を一身に受けられると言う訳だ。

校内どころか世界中に彩士のファンクラブがあるとか。


もしあの時、櫛木博士が生きていたら


そんな事は考えても仕方がない。

僕はナチュラルに生まれて良かったと思っているし

地下での生活も悪くない。


「…特に、世紀の天才と名高い櫛木博士だが

1年寿命が伸びる事に世界が10年進化する

とも言われている程だ。

新田博士が唯一敵わなかった人だったらしいぞ!」


酒井は無神経に笑い飛ばしているが、その隙

彩士の整った顔が一瞬歪んだのは見間違いではないだろう。


「まっ…たく、世界を救った天才科学者の子孫が2人に髪長比売の末裔、なんなんだこのクラスは」


困った様なフリをしながら内心自慢気な事を

生徒の皆に見抜かれている、この先生も中々の人気者だ。…僕も嫌いじゃない。


終業のチャイムが響き、教室は一層騒がしくなる。


「おい、宗!」

「なに?」


「先祖達の本当の所は分からない、俺は半信半疑だ。

だがそんな事はどうでも良い、今が全てなんだ

そうは思わないか?」


まただ、、彩士は優勢遺伝子だけで作られたはずなのに、、、


「彩士」

「なんだ」


「君は僕より遥かに優秀だよ。わかるだろう?

僕は駄目だよ、頭も良くないし運動も出来ない

何より、君みたいにかっこよくない」


「…ッチ、、言われなくてもわかってる!

俺は天才だ。誰にも負けない様に作られたんだ。

そんな事、、分かってる、、!」


彩士は何故なのか劣等感の塊だ。

完璧と言う言葉を具現化すると彩士が出来上がるだろう。

なのに、こうして、まるで劣性で作られたみたいに

いつもいつも僕に突っ掛かってくる。

小さい頃からちっとも変わらない。


「ねえねえ、2人とも!お取り込み中ですかー?」


張り付いた空気が一気に柔らかくなる。


「げ、、、!絹、、、」

「げ、とは何よ!彩士!」

「や、あ、、違う!違うんだ絹!」


そうだ。

違うんだよ、絹

全く分かっていない様だけれど

小さい頃から彩士は君を、、、


「ちょっと、なーにニヤニヤしているんですかあ?櫛木博士〜?」

「ごめんごめん、何でもない。

ところで、どうしたの?」


「んもう。あのね、中央(セントラル)に美味しいカレー屋さんが出来たんだって。良かったら3人でどうかな?と思ってね」


「そうか、悪けれど俺はこれから会社で用がある。

2人で行ってくれないか。」

「ん〜、そっか。仕方ないね。お仕事?用事?

とにかく頑張ってね。」


顔の前で両手で拳を作り時代遅れのポーズを取る絹を見て

思わず綻んだ顔の彩士の顔を見て思わず綻ぶ僕の顔。


2人は僕の大切な幼馴染みで、唯一の友達だ。

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